断片


僕はどうして、描くのだろう?



気怠い夕方に青い雨、手首を感じて
冷たい光、レコード盤を発掘する
ぼくはクローゼットを散歩する
ぼくは何も求めていない
ぼくは何も求めていない



期待するのは 乱立する林の
地帯に、タンクローリーが冷たく
出来る限りゆっくりと崩れていく光景



部屋の中で煙草を吸っていて
気流の中に立っている三人の人間について
彼らの身長について
論議するには煙草じゃなくて
マリファナがいると思った
それから 老いぼれることも
必要だ(つまり心地よく老いるには
詩が必要だし 詩を書くことは
静かな皺をなぞること)



声の中には 低く笑っている
君以外の 妖精がいて
その妖精に悪気がなく
また ときにすごく人間くさくもあるので
君はときどき、あまりおかしくもないことに笑って そのあとで
間違いに気付いたみたいに 少し恥ずかしそうな顔をする



蛍光灯を豆球に取り換えた
不思議と 生きることは詩ではなかった
それはただ 存在することの危機だった
だけど危機は死者にとっては
単なる夢想のための光源のようなもので
そして死者の世界では生は
道路のようなものだった
死者は空を飛び
道路は悪い趣味で
歩くことよりも 砂場を好んだ

僕は消えたい
ひとは知ることよりもずっと
死を好む 分かることは死ぬことで
本当に死ぬことは 分からないことの全てと
分からなくても構わない全てがあることを
知っているから

私は私を、ほんの少しだけ解いて
明日の朝の私のためにほんの少しだけ
死にたい



眠れない夜には街を消していく
僕は混迷してぼやけていく
水たまり、世界中の水たまりをひび割れと
無音と月明かりで満たしてやるんだ

水たまりには確かにひとつのはしごがあって
僕をいつかの街の夕暮れへ連れて行く
――淡い、手のひらの温度が
   僕の網膜ににおりてくる

虹の葬列がやって来る
隣の部屋では本を燃やしてる