音色

心。
心よりも色彩。
色彩よりも音色。

音楽が私を覚えている。
私の脳よりずっと。

透明で暗く、川のような、そして無音の記憶。
(言葉で風を凍らせたい。)
(夜の透明に溶け込んでしまいたい。)

雲の消失点、
私が求めているのは新鮮な空気、
肋骨がふわりと肺臓を包んでいる。
お腹の底まで空気を吸いたい。
それは煙草の煙でもいいし、今生きてる感じ、
街の光の断片がきらきらと浮いた空気でもいい。
けれど今私は森の傍に住んでいて、とても湿った空気を、
吸っては吸っては歌にして吐き出している。

この世界の光の音を聞き届けたい。

烏が鳴いている。空に滲むような声で。
空が泣いてるみたいに。

口頭では決して言えない、人たちの心の中身。
目は逸らしつつ、互いの言葉だけはよく吟味して、咀嚼して、
空間には丁度いい重さの、そして触れられないお互いへの好意が、
いつも浮かんでいる。
私たちはいつか空間のその柔らかさを好きでいたと思う。
言葉に真摯であり続けるしかない私たちは。

「好き」に向き合えないとき。
喉の奥に灰色の冷たさがあるとき。
ばっさりと、命を捨ててしまいたいとき。

全ての景色が、永久に飛び去ってゆく意識を抱えたまま。
私はこの世に定住したくなってしまった。
まじまじと、去りゆくだけのこの場所を、
心ゆくまで見詰めるために。