リチウムの中で

絵だって歳を取る。
私は十万人の老人に囲まれて暮らしている。
印象的な微笑みは、
鏡の中に。

混乱を、リチウムの雨で洗い流す。
リンドウの花が、
蜂の巣の中で咲いている。

人は、
人の孤独を「美しい」と言う。
瞳孔の中で揺れているのは、
いつも涙の海の光。

パワーショベルやスマートフォンが、
ゴッホの絵みたいに、
みんな黄色く塗られて、
ふと周りを見渡すと、
皆が私であるような錯覚に陥る。

私は赤信号を見上げる。
信号の赤はたらたらと、道路に溢れ落ち続けている。
私はそれに手を伸ばす。

私はここにいる。
(本当に?)

そして私だけが、宇宙を終える。

8つの詩

*Key
多田葵の見せてくれる世界の中で、電線の光景が目覚める。
サンクチュアリ?…ううん、ユグドラシル?
麻枝准の作る世界が、文字通り死ぬ程好き。

 生命の水を骨髄に注入されるような。
 夏の一点。刹那にだけ流れる映像、ノイズ、ノイズ、ノイズ……。

大きな、大きな水槽の店、夕焼け、

 

*魚
全ては還っていく。 だから君は心から、完璧に安心してていいんだ。
全ては過ぎ去っていく。 だから僕は踊るだけ、泳ぐだけ、ただ愛するだけ。
君は何を愛する?――僕は魚になりたい。
(スネイルフィッシュって見たことある? 着ぶくれたような、丸い目の、可愛い魚だ。
 浅瀬と深海を自由に行き来するんだって。
 街には社会生活があるけど、地表は街の何万倍もある。
 そして深海は地表の何万倍もある。__(そしてここは深海の端っこ。)
 宇宙は深海魚の夢。)

 

*祈り
あなたは他人のために祈れますか?
あなたはビルの白壁のために祈れますか?
あなたは金魚のために祈れますか?

あなたの指が腐敗していく。
土に還っていくあなた自身を、あなたは笑えますか?
あなたの指を種として、恒星がもうひとつ出来る。

      机の手触り ここはCDの中の世界
      折り鶴、  アラスカの夕闇
      記憶  甘さ  おもちゃ
      のようなギター ままごと
      星座. キーボード
      入り口――(中)――出口

きらきら光り、ビル群を越えていく祈りたち。
その中で透き通り、風を含んでいくあなたの越え。
あなたはいつしか、意識の中へ全ての星たちを住まわせるだろう。
祈りの中であなたの声は震え始め、いつか……
ある朝のおり、あなたは全ての月日を同時に生き始めるだろう。
宇宙の全ての電線に接続されて、
死んだ私に、あたなたはきっと会いに来るだろう。

 

*祈り/2
人、人、人、……
やなぎなぎのガラス片のような。――

人は何を得るだろう?
人は、何を失うだろう?
――知ってる。
何も得ないし、何も失うことはないのだと。

人は誰ひとり悲しさを本当には背負えない。
人は誰ひとり、可哀想なんかじゃない。
祈っても、祈らなくても、人間はもともと、
みんな痛々しく充実したゼロなのだから。

冒険が忘却なら、気に入ったマグカップを握って、
マグカップの未来を願うといい、それが愛の萌芽。
千年後のマグカップ、あなたのいない世界の為に。

私は千年後の為に書いている。
千年後、あなたは泣いてくれますか?
もう、
滅びてしまった過去の為に。私のいない世界の為に。

 

*電線
私は電線が好きです。
それは人々と機械を均一に結び付けるからです。
現実とは儀式なのだと思います。
例えば部屋の中のコンセントは、私を
原子力発電所へと誘うでしょう?
また、音楽は私を1967年に、或いは
18世紀のバッハの時代に運ぶでしょう?

あなたもまた、儀式の中を生きていて、
皆、イニシエーションに最中にいます。

私は電線や光ケーブルが好きなのです。
皆、一見するとばらばらに見えます。
でも本当は、‘個’と‘個’が繋がっているのではなく、
本当にあるのは繋がりそのものだけで、
その中で個は消失し、残るのは空を埋め尽くす、
電線と電波の無尽蔵な遊びだけなのです。

私は中性紙が好きです。
私は没蝕子インクが好きです。
万年筆が織り成す世界の彼方に私がいて、私は世界を見て、
私は光であり、光はあなたなのでしょう。
どこまでも伸びていく世界の中で、
光の膨らみの中に私たちは溶け、
全ては区別を無くし、白い虹として全ては完結するでしょう。
美しいです。世界はどうあれ、彼方はいつも。
――電線を見ていると、そんなことを思います。

 

*(テレキャスターに宛ててのポエム)
テレキャスターって緩やかな、深い川の流れのような音がする。
水自体が暗い光を湛えているような、柔らかい、夢の溜まり場。
宇宙を模した、手のひらに乗る、可愛いおもちゃみたいな音。
水を含んだ、フロント・ピックアップの音。

どんな嫌な人でもテレキャスターを弾いてたら、少しだけ憎めない奴に見える。
鬼に金棒よりも、天使と竪琴よりも、
可愛い人とテレキャスターの組み合わせが一番魅力的。

でも、全てのギターが好き。
ギター――心の奥底を、一番すんなりと見せられる楽器。
静けさから暴力的なまでの狂気まで。
雲や気持ちやせせらぎに、名前を付けていける楽器。

たった6弦21フレットの、永遠性。
私の身体を、具体を、光の鈴鳴りの通り道として。



月明かり が 沈んでいく
カタン)(コトンと鳴る、呼吸のような音

赤い羽根、黒い羽、緑の羽、……

 

*詩集の序
「よかったら読んでみて。
 君の為にいくつか、余白を空けておいたから。」

ちょっとした日記(気分の記録)

2026年7月20日(月)、

午前2時、

コーラルピンクの音楽。絵の中の錆びた鉄の匂い。すみれ色に加工された声。花たちが静かに秘めた数式。お揃いの寂しさ。ふたりいることでの孤独。空気を舐める。湿度の味。車の中。天井と窓の境目。

生は、訳が分からないくらいすごいし、死ぬということもまた、何て素晴らしいのだろうと思う。誰かの眼を気にしている余裕なんて無いのだと思う。

世界を、もっと知りたい。

感情を押し付けられるのだけは嫌だ。感情を強制されるのはもっと嫌だ。
そしてまた、他人は、自分の願望とは無関係に存在するのだと認めること。

どこか(ソネットの中?)で書いた気もするのだけど、「人を理解しようとする試みは、殆どの場合、自分の願望に基づいている」、つまり大抵は、他人を理解しているつもりで、単に自分の願望を押し付けて、他人についての勝手なイメージを、自分の中で作り出している、と最近よく思う。
少なくとも僕はそうだったし、これからも(こう書きながらも)そうあってしまうのかもしれない。もちろん、皆がそうだとは限らない。本当の共感に基づいた理解だってあると思う。でも、共感出来る人は、安易に「理解」なんて言葉は使わないだろう。「君らしい」とか「君らしくない」とか、自分のキャラを気にするとか、とてもくだらない。

「理解だと? 理解なんてものはおおむね願望に基づくものだ」という言葉は、攻殻機動隊(『イノセンス』)の中の、荒巻(偉い人)の台詞なんだけど、最近まであんまりよく分かってなかった。

誰も心配してくれないと、皆を恨み、心配されると隔絶を感じて、結局人が好きなのか嫌いなのか分からなくなる。

多分、善意で人は変えられないし、人から離れた方が、世話を焼くよりお互いにとってずっといい場合もあると思う。究極には他人との付き合いに於いても、大事なのは自分自身の自尊心なのかな、と思ったりする。その上で、他人の個人性を重んじること。人の願望に侵害されず、自分の願望を強制しないこと。



昨日の朝、深く深く眠った。半日近く寝ていたんじゃないかと思ったら、30分しか寝ていなかった。それから元気なままだ。
怠さとかが全然無い。それが一週間くらい続いてる。不思議だ。いつもと変わらずだらけてたのに。Tame Impalaの音楽が、骨の底から気持ちいい。

僕は、しんどいときは目を開けているのやら寝ているのやら分からない、ぼーっとした表情を多分していて、呼吸もよく忘れてるのだけど、楽しく考え込むときは、斜め上の、天井と壁の境目の少し下辺りを見上げたり、目の前の壁に貼った、コーネルの箱作品の写真(『エミリー・ディキンスンへ』というタイトルの、一番好きな作品)を見ている。シャープペンシルを両手で持って、鼻の下に当てたり(革のペンケースの中に入れた香水の染みた紙と、古い消しゴムの匂い、そして淡い革の匂いが混じった、複雑で素敵な匂いがする)、ペンで顎の下をとんとんと叩いたりする。そうしてると落ち着く。

このペンの匂いの中にも、僕には知り得ない何かが宿っているのかな? 例えば図書館に出かけて、本を読みながら、僕は時々、いつもはこの部屋にあるペンケースやシャーペンを取り出して、匂いを嗅いでみたりする。もしかしたら、部屋だけにある、何かの存在の名残が、この匂いに残ってるんじゃないかと思って。

……本当に実在を証明できるものなんて、この世には無い。人間のことは、特に分からない。僕はただ、僕がここにいて、僕の気持ちが揺れたり嬉しくなったりすることだけは、抗いようも無い事実だと認めている。それだけで今は十分だ。

多分、僕は今、少し元気になりすぎている。普通のときの気分が、大体マイナス10からプラス10で揺れ動くとしたら、今はかなりプラス側に針が振れていて、プラス15くらいになっている気がする。頭がショートしそうな感じ。そしてそのショートがすごく気持ちいいような感じ。

たまーに、ちょっと元気だな、と思うときはあるけれど、数日前から、いくら何でも元気がありすぎる。恐怖も不安も疲労感も、全然無いので、自分としては嬉しいのだけど、他人から見ればかなり心配な状態になっている、と判断は出来る。

以前、もっと本気で、病的に躁状態がひどかった時は、一週間ぶっ通しで書いていても、全然平気だったし、アドレス帳の上から下まで順番に20人くらいに電話を掛けて、数日間で電話代が8万円になったり、友人に言わせると、真夜中に僕が電話を掛けてきて、3時間以上、一方的に止めどなく喋り続けていたらしいのだけど、全然記憶に無い。今はそこまででは無いのは、多分薬で抑えられているのと、自分で意識的にストップを掛けているからだと思う。明らかに病的な言動を取ってしまったら、友達を無くすし、誰からの信用も失ってしまう、と考えて。

今は、主に鬱を抑えるためにラミクタールを飲んでいるけれど、次の通院日(明後日)までに、さらに訳が分からないような興奮状態になったなら、リチウムに替えた方がいいかもしれない。リチウムは嫌いな薬だ。以前リチウムのODで死にかけたことがあるから。死んだのならまだしも、数日間、地獄ってこんな感じなのだろうか、と思った。苦しみの中で死ぬことを観念して、神でも仏でも、今助けてくれるなら信じようと思ったくらいだ。全身を有刺鉄線で貫かれて、内臓や脳まで容赦なく縛られて、血まみれのままで、身体中を引きちぎられそうな感じだった。正直に「200錠くらいウォッカで飲みました」と言ったら、病院の先生には笑われてしまった。そんなに飲んだら絶対に死んでます、と言って。僕は一回死んだのかもしれない。
リチウムは体が拒否している感じだけれど、躁状態には殆ど唯一、てきめんに効果がある薬とされているので、自分で少しはましな判断が出来る内に、処方して貰った方がいいのかもしれない。

(2時間眠った。夢を見た。夢の中に久しぶりに母と弟が出てきた。ふたりともすごくいい人として登場して、ふたりの顔を見ると、嘘の無い笑みを浮かべていて、心が安らいだ、夢の中では。)
(夢から覚めると、弟も母もとても遠い人に感じて、夢よりも現実だよな、やっぱり、とか思ってる。そう思いつつも、最近、現実よりも夢の方が楽しい、と言う母の気持ちがよく分かる。悪夢さえ見なければ。)



午前5時前、

過去の自分は古びていき、今も僕は生まれ変わり続けている。宇宙全体がそうであるように。太陽も地球もいずれは滅び、滅びた後から新しい星々が産まれる。細胞のひとつひとつが僕には感じるべくもない星であり、いずれは僕全体だって終わってしまう。
終わる前も、終わった後も、変わらず残り続けるもの。僕にとって、それはきっと、今も僕の底にある、僕の感情の全てを産み出し続ける、花のような存在だけなのだろう。僕が今書いている言葉たちもまた、全ては花の末裔のようなもの。花……何の実利的な意味も無いもの。意味もなく綺麗なもの。眼の前に見える全ての世界。それらは全て、意味も無く綺麗。あるいは意味も無く醜い。全ては、僕の底、そして世界から送られてくるメッセージ。受けとれば受けとるほど、僕は意味の無さに消えていく。僕は笑う。誰もが笑う。笑みが純粋であるほど、それは世界の全てを含んでいる。無意味だけど綺麗。
いつだって笑みはお別れに似ている。この世界のものでありながら、今ここには無いものからのメッセージ。何故か笑ってしまう。何故か夢見てしまう。僕は今、この場所にいる。永遠を信じて。現実の流転の中で、絶対に変化しないもの、その小さな掠れ声を、例えば眼の前のレモンジュースのペットボトルから微かに感じて……その歌に耳を澄ませて、まるで錯覚を追うように、影の向こうに本質を探し求めて。僕はここにいる/そして同時にここにいない?
そして僕は、自分が何を書いているのか分かってない。

全てが風だとは思っていない。風が僕という楽器を少し鳴らしているとか、それが今僕が書いている言葉なんだとか、そんなこと、思ってもいない。そうじゃないんだ。永遠の風なんて信じていない。風じゃない。
吹きすさんでいるのは言葉。僕はそれに耳を澄ませて、翻訳し、翻訳前の言葉を探し求め、世界に、少しだけでもいいから触れたいと思っている。世界は徹頭徹尾、無でなんかありはしない。世界は誰かの、誰かの、そしてまた誰かの、囁きと、沈黙の言葉と、微生物たちや石たちや、建物や地面や、人工物や光や空や、煙草や薬や、愚痴や叱責や、あらゆる腹立ち紛れの、不安や無いものねだりの声に満ちていて、全ての言葉は飛び交っていて、それらをひとつひとつ拾い上げている内に、僕は海の底に少しずつ近付いていける。(一番身近にあるものは、一番果てにあるもの。)光、風景、感情、悲しみ。歌っている。囁いている。今もここにいて、同時に果てにいる。言葉は、感情は、そして更に深くの沈黙は、そこにも確かに流れる感情や、小さな感覚は。ずっとそこにいる。僕の底にある、今はまだ夢の中でしか出会えない、花のような存在に、僕はもう一度、この現実の中で、会いたい。



午前5時半、

セミが鳴いている。さっきまではヒグラシが鳴いていたのか、知らない。Tame Impalaって、ハイな気持ちに合うよね。ジョン・レノンが『アイ・アム・ザ・ウォルラス』のサイケデリックな路線を続けていたなら、こんな曲をたくさん作ったのかなって思えるような音楽。すごく気持ちいい。一番よく聴いているアルバムは『Lonerism』。……少しだけ落ち着いてる。睡眠は大事。リチウムが要るほどではないのかも。


*(また少し内向的)
少しずつ五感が戻ってきた。雨の匂いや、夜の海に映る街灯の光や、何処からともなく聞こえる子供の歓声の中にある、いつも変わらない郷愁みたいなものを、物質やこの世界を越えた、何処か遠くにあって、同時に近くにあるものへの入り口のように感じるようになった。
だけれど、このままただ惰性で生きていれば、次の5年後には、僕はひげを生やし、髪を伸ばし、不平不満に満ちた、もう後戻りの出来ない、どうしようもない、べたべたしたゴミのような人間になり、もはや生きることを諦め、かと言って死ぬほどの衝動性もない、僕自身にとっても、心から唾棄すべき人間となっていそうな気がする。別にそれが悪いことだとは思わない。でも、何も、自分を良くする行動を起こさなかった自分を、もはや一生許せなくなるような気がする。繰り返すけれど、それはそれでいい。人は、生きているだけでいいと思うから。

けれど。でも。どうしても、そうじゃない。

ゴッホの絵とか、フェルメールの絵を、毎日見ている。pixivのイラストも、相変わらず、漁り続けては、たまに感動的なイラストを描く絵師さんに出会ったりする。多くの画家が普段感じているのは、もしかしたら不安や孤独なのかもしれないけれど、描いている最中は幸福であったと信じたい。
(しばしば思うことだけど、AIって100点中80点くらいの作品は、コンスタントに作れる。最近pixivでも、AIで作りました、というイラストが増えてきていて、綺麗だなと思うけど、100点中120点だと思うくらい、本当にすごい絵は、今はまだ人間にしか描けないという印象だ。)

人間でいて良かったな、と思う瞬間は、切なくて、愛おしくて、苦しいけれど、過ぎて欲しくない時間。時たま、奇跡のように訪れる時間。

言葉を涵養して、醸造して、蒸留して、腐敗せず、退廃せず、しかも最高に聖なるものと、最低に下劣なものの両方を行き来し、読み手に、心の呪縛からの離脱を使嗾するような、天然物みたいで、同時にガラスのような文章。あるいは、倉皇としてでもいいから、帰ることの出来る小部屋のような詩を。書きたい、(個人的な)宇宙を。人工的な夕暮れみたいな、平坦な爆撃の風景を。生き延びる術を。(難しい単語を使ってみた。)

壁の染みを眺めている。血の跡がいっぱい残っている。

オレンジ色の宇宙船、船内。……。
……。

僕の中で自律的な力が働いているのではなく、向こうから感動的な宇宙の側面が切り出されて、僕の脳に差し込まれているような感じ(カードリーダーか何かみたいに)。拒まないでいること。世界は僕に散々、眠れなくなるほどのメッセージを発し続けている。いろんな形を取って。受信しているだけ。僕に出来るのは、感覚を開きっぱなしにすることだけ。

皮膚感覚が過敏になっていて、長袖のシャツが気持ち悪い。腕時計も手首に湿った異物感をもたらす。Tシャツと、よく分からんパジャマで過ごしてる。冬には二十年間着続けた、もらい物のコートが、着ている内に朽ち果てて、いくつかの端切れ同然になってしまったので、同じ型のを買おうと思っている。けれど、そのコートは随分昔のサイトの記事でしか見付からないし、僕にやすやすと買えるような安いコートではない。もらい物とのお別れ。お別れして悲しかった記憶って、無いような気がする。世界はきっと、幾つにも分かれていて、僕は川のような流れに乗って、ただ漂流したり、溺れたり、泳いだりしている。生き延びたところで、いつかは多分、海に出るだけのことなのだろう。



これは軽躁ではなく、ただの風向きのようなもの。時間……生との巡り合わせのようなもの。

読書とか(2ヶ月前に革の文庫本カバーを買った)。すべすべした手触りと革の匂い、そして頁の紙を捲るときの、かさっという音が、ピアノの装飾音符よりも胸に心地よいアクセントとなる。

いろいろな見方が、人生にはある。誰もいない場所で咲く花や、空。人類が絶滅した後も続く世界。そしてこの部屋の中で僕は、お気に入りのシャープペンシルを撫でたりして、少しずつ流れる時間を生きている。この世界は、楽しんだもの勝ちなのかもしれないけれど、この部屋の中には、勝ち負けが存在しない。僕が僕であるならば、それだけでいい。



午前6時過ぎ、

セミが、じゃーじゃーとうるさいくらいに鳴いている。

人って個人史を生きている。生きるって、面白いことだ。
僕は長年、すぐにでも死にたかったけれど、今は歳を取って細胞が心地良く枯れ果てるまで生きたいと思っている。破滅的に生きてきた割には、僕は身体が健康で、精神的にも落ち着いてきた。ものすごく歳を取ったような気がしていて、細胞も神経も完全に疲弊したような気がしていたけれど、案外そうではなかったのかもしれない。
僕は昔から、脳や心が歳を取るということを全く信じていない。だから、歳を取ることを全く気にしていない。情熱と好奇心があって、固定観念に囚われなければ、何歳になっても人生は面白いに違いない。体力や筋肉が大事だという説も信じてなくて、ひとまずキーボードを叩けて、ピアノやギターを弾ける程度の筋力さえあれば言うことないし、あとは立ってギターを弾けるくらいの体力があれば十分だ。

それにしてもセルロイドの黒縁眼鏡って安心する。たまに以前のお気に入りだったメタルフレームの丸眼鏡に掛け替えてみるんだけど、金属と肌が反発し合っているような気がして、少し落ち着かない。それにやっぱり丸眼鏡は視野が狭い。セルロイド……というかプラスチックの方が柔らかく顔に馴染む。どっちが似合うかは、まだ分からないんだけど。黒縁眼鏡は、顔の半分をかっちり守ってくれるみたいな感じがする。

やっぱり僕にとっては、頭を使うのが一番楽しいんじゃ無いかと思う。身体を使うよりは、僕には、明らかに楽しいように思える。まあ、それは本当に、僕の個人的な感覚だし、僕はまともに運動をしたことが無いので、精神的作業と身体活動のどちらが楽しいかなんて、比較することは出来ないのだけど。

Tame Impala(この頃やたら嵌まってる)の音楽が堪らなく気持ちいい。今聴いてるアルバムは『Currents』。音楽って、結局、どんな薬よりも気持ちよくなれる。音楽が気持ちいいのは何故だろう、とよく思う。物理的に言えば、ただの耳から入っている空気の振動でしかないのに。イラストだって(物理的には)光の信号でしかない。いろんな情報が僕を気持ちよくしてくれる。多分、それが「何故か」なんて言葉にしなくてもいい。目の前にあるものを、そのまま受け容れればいい。

と言いつつ、少し考える。
……
疑問:コンピューター・スクリーンに映ったイラストの花と、自然の花は、究極にはどう違うのだろう? おそらく、僕個人にとっての明確な違いは無い。――自然の花はいつか枯れてしまう。イラストの花はいつかデータが破損して消えてしまう。ただそれだけの違いしか。――けれど、今この瞬間、僕の『「眼の中」/「眼の外」』で、イラストの花が永遠であることを、僕はリアルに感じる。なのに自然の花には、永遠を感じたことが無い。それは何故だろう?
花を想像していると永遠を感じる。けれど、現実(?)の眼の前の花には、怖さばかりを感じる。何故?

仮説1:僕は「感情」が好きなのだと思う。世界との「感情的な繋がり」、そして「感情」によって得られる、あるいは「感情」を含んだ、世界の無限の奥行き、を求めているのではないかと思う。無感情、あるいは感情の断絶が怖い。イラストはエモーショナル。錯覚かもしれなくても。それは、データとして枯れることなく、いつだって好きなときに対話出来る。僕個人にとっては、それが錯覚でも現実でも、どっちでもいい。でも自然はどこまでも、無関心で冷酷だ(と、かなりしばしば感じてしまう)。雨は別に僕の為には降らないし、星たちはあくまで僕を無視する。少なくとも、僕はそう感じる。実際の花より、想像上の花に親しみを感じるのは、花を想像するのは作者、あるいは僕の感情だからなのではないか、と思う。――無感情な繋がりがあったとしても、それは僕にとっては、繋がりとは呼べない。――感情によるコネクト。その感触が欲しい。
音楽もそう。それは僕に「感情的」な繋がりを感じさせてくれる。

仮説2:イラストや音楽が楽しいことについて。それらは、自然よりもよほど情報量が少ない。情報に混乱しがちな僕は、限られた情報に、安心感を覚える?――違う。自然からだって、限られた情報を受け取る、ということは出来る。けれど、自然は僕を「包囲」し、常に僕を侵し続ける。イラストや音楽の情報量が、仮に自然の風景以上に無限大だったとしても(それは技術次第で可能だろう)、そこには入り口がある。それはディスプレイやヘッドホンの中にあり、自由にその中を泳ぎ回るのも、電源を切るのも、僕の意志次第で、自由だ。――でも、多分、それだけじゃない。イラストや音楽には、描かれていないもの、鳴らされていない音が、必ず存在する。みっちりと、解釈する必要の無さを息苦しいほどに感じる自然の風景とは違って。僕はイラストや音楽の、その余白の部分に、とても安心し、余白を自分の想像で埋めたり、想像を泳がせることで、そこに寧ろ、無限を(自然以上に)感じるのではないか? 多分、だから僕はあまりにも描き込まれ、線や色が多過ぎ、そこに想像の余地がない絵や、音で充満して、作者が意図する以外の聴き方を拒むような、解釈の余地の無い音楽に、すごく息苦しさを感じるのでは無いか? 余白は対話の可能性、そして対話は無限に続く。僕が生きて考えて、想像してる限り。そうすると、自然の方が、僕にとっては有限に近いということになる。――車窓から見える街の光、そこには想像の余地があって、窓がスクリーンのように感じられて、だから音楽を聴きながら、ぼーっと車に乗って街を眺めているのがすごく好きなのかも。
自然は、僕の想像力を萎縮させてしまうのではないか? 想像力を超えている、と言ってもいい。僕を超えたもの、自然に対しての畏怖の感情も、決して嫌いじゃないし、おそらくそれを拒否すべきではない、と感じてもいる。……でも、山とか海って、怖いよね。
自然が大好きな人だって、もちろんたくさんいる。自然の、もっと自由な楽しみ方を教わりたい。言葉じゃなくて、例えば表情で、そして笑みによって、確信に満ちた動作によって、僕を案内して欲しい。でもそれって、自然の好きな誰かを窓にすることによって、自然をまるで人工物そっくりに味わおうとすることなのかな?(多分、これ以上は考えるべきじゃない。もっと気楽に行こうぜ?)

……

無限を求めてる。永遠も。でも、僕が求めてる無限や永遠は、果てしなく続く、夜空の星々に対するときのような、恐怖と魅惑の混じった、崇高な(?)感覚ではないのだろう。(ついでに言えば、夜空の視覚的な情報量は、一枚のイラストよりも少ない。)怖い。けれど同時に、その崇高さみたいなものに、怖いもの見たさや、自分の中の根源的な何かに出会いたい気持ちで、触れたくなるときもある。人間世界がたまに窮屈になったときとか、そういうときは、自然は物の充満じゃなくて、圧倒的な「余白」に満たされている気がする。空が、苦しみの置き場となって、その無関心さが、いくら心のゴミを流しても無関心に流れを一切変えない川の流れとかが、深い安心をくれたりする。……「まあ、要はバランスだよね」と無難で、何も言っていないような言葉で結論づけて、一旦思考停止することにする。
と言いつつ、言い訳のような付け足し。「自然は僕を「包囲」し、常に僕を侵し続ける」と書きつつ、自然よりずっとしんどいのは、言葉/思考に「包囲」されることだ、ってことを、苛々した思考や言葉、言葉、言葉、の最中にありながら、僕はかなりしばしば、よく忘れる。鬱蒼とした自然に比べ、鬱屈とした思考の先には、拡がりなんて全然無くて、多分、闇/病み、しか無い。でも一度囚われると、すごく厄介なんだ。強制終了した方がいいのに。……と言う訳で改めて、一旦、思考停止します。


*君でも僕でもない場所で、……恐怖の無い世界で、また会いましょう、繰り返し、……
にしても、セミは鳴いてるなあ。音楽やイラストが気持ちいいことの説明が出来ないなあ。「説明不可」で今はいい。すごく気持ちいい。今はそれでいい。シンセの重奏感と、浮遊するヴォーカル。レイヤー、ギターのファズ、コーラス、ディストーション、音の重力と、白い反重力、切り裂いてる、(休符)、金のピンのようなスネア、それから彩度のあるヴォーカル、ディレイの波に揺れるままに空間を突き抜けていく。それら全ての空間を圧縮して、そして白飛びした音が、「さーっ」と鼓膜に投射されて、切り取られた明るさ。鮮血が澄んだ泉にゆったりと沈み、溶け拡がっていくよう、淡いピンクのベースライン。笑った。笑み。その笑みのままに。合わさりかけた唇の1mmの透き間のように。明るい世界は、いつもここに、ある。ここに、君の背骨、ちょっと出てった先に、震えと共に。ここに、ある。ただ交差し合う光の、終息の地として。ここに。心でしかない君の、指先に、3度か5度の、クリック。ここにある、その繰り返し、として、そして。(イラストを見てる、音楽を聴いてる。)

メモ(ネガとポジ)

*ネガ
苦しみを創作の種にしようと考えて、苦しみを笑い飛ばしてきたつもりだった。
けれどそれは僕自身を、ただの「材料」にしてきた、ということで、多分それで苦しい詩ばかり書いてきた。
そして、自分のネガティブさを意識すると、さらにネガティブになる。
悪循環だ。__僕は僕自身を殆ど見失った。自家中毒と自己の模倣。
生きてる僕は何処? 本当の僕はここにいるのに、僕はここにいない。
自分の苦痛を和らげる試みはしてなくて、ただ苦痛を利用してきた。
__けれど……? 「深く呼吸して」とか、よく医者の先生に言われる。
だが、深呼吸で楽になった経験が、僕には一度も無い。
だから「息を吸って」とかいう言葉に「はい」とか「ええ」とか言いながら反発している。
ここにいるはずの僕に手を伸ばしても、その手が空っぽだ。
自分自身で言葉に埋没してきたのに、言葉を憎んでた。この意識を、思考を、知識を憎んでた。
ここにいる僕なんて無価値だ。頭が悪い。ゴミ。腐ってる。死ね。
生きてはいない。死んでないだけ。
現実味のある苦痛と、非現実感、実感がない。それを求めてさえいない。そして空虚。
自分に価値がある? 何処に?
生きてるだけでいい? 寄生虫の僕が?


*ポジ
心でも実感すること。
声を出してみること。
生きてるだけで価値がある、か。「少しだけ」分かる。
というか、生きてる僕にいいも悪いもない。
世界の全てが、僕の世界だから?
「少しだけ」分かる。
例えば今喋ってる僕の声が、反応とか、思考の産物じゃなくて、自分の声だという感じとか。
「あー」とか「んー」とか、よく分からないけれど、
分からないでいいのか、もしれない。

身体は嫌いだ、__と思うけれど、まあ、あるものはある。
……で、それが何? キーを叩く感触。何ってこれだ。
ボールペンが紙を滑ってる。
シャーペンが紙をさりさりと擦っている。
誰のものでも、ない。
英単語をひとつひとつ、ゆっくり噛んでいくとか。
ただ「音」の、音楽としての自分。
__まだ心の底に、もやもやを残してはいる。
(僕は、自分は今ここにいるはずなのだから、何か方法があれば、あるいは切っ掛けとか、ある種の考え方があれば、一瞬で自分が変えられるんじゃないか、と思っていた。だから「こうすれば楽になる」とか「こうすれば自分を変えられる」とか言う本を読んだり、動画に釣られたりしては、「全然効果ないな」って、落胆してた。
けどいい加減、劇的な変化を求める僕の焦燥感が、僕を追い詰めている、と薄々分かってきた。)
もし今、何か小さなこと(例えば、温もりとか、手の感触とか、自分の音とか)が感じられたなら、段々もっといろいろ感じていけるのかも。
その内もっと確かな僕を感じられる日だってあるのかも。

思考の靄を一気に晴らす方法は、多分無い。
靄の中を進むしかないのかもしれない。
自分という、小さな家。眼という窓。
少しずつ確かにしていくしかないのかも、しれない。

(モノクロになりかけている僕の世界が、いつか、カラフルな風景を、取り戻してくれたらいいと思う。)

ソネット

*1
私は星屑の工場になりたい。
私の身体を光の通り道にして、
先住民たちにしか見えなかった、
白紙のノートをきらめかせて歩きたい。

経験論しか知らない。
郵便屋さんが、僕以外の総体を運んでくる、
それはスピードだ、命の保護材だ。
厳かに僕は、荷を解いて、真っさらな詩集の匂いをかぐ。

グラント・グリーンの電気ギターの音が好き、
きっと僕の細胞も脳も電気で出来ているから。
リスキーで、冷たい感触を、全ての物は生きてるから。

物質的恍惚……うん、あの世もこの世も無いよね。
ミュージシャンはみんな、お祭りの最中に隠れて、
地下のボイラールームで星降る夜の雨を売っている。

 

*2
白いキーボードが好きだ。まるで白い雨を降らせ続けてるみたい。
その中を白い魚が泳ぎ、その白よりももっと速く、
僕は生きている、田舎よりも都会よりも、原子のスピードで。
思い出の日本中の街、最近とてもTeleが好きで、記憶みたいな歌で。

セミの声に体内の弱さを引き出されて、
買ってきたアップルパイやショートケーキはみんな濡れていて、
空気も抜けて乾いた僕は、かけがえのない人々に劣っていて、
発する言葉もみんな馬鹿げてて、枯れた僕は灰色の生活よりも退屈で。

現実には笑みがあって、海があって、夜が好きで。
映画や本で現実を集め、
思い出は光に満ちた灰色の、塗り立ての看板のように。

この半生のトンネルは、千キロ以上もありそう、
痛みを抱える足を抱えて、見えない落書きを壁に印刷して、
ポケットには、何が残っているのか?、憧れ?、それとも空気?、それとも暗闇?

 

*3
静かな冬に私は帰省する、
巣穴から出ないことが私の人生。
西には鉄棒の国があるという、
東には亡くなった人だけの国があるんだって。

説明が僕を駄目にする。
僕は今、高さが35センチの椅子に坐っているのだけど、
それはもちろん、グレン・グールドに肖ってのことで、
でも僕はグールドのように早死にする気は無い。

停滞した文字の山が、段々霞がかってくる。
叡智は言葉を知らない。
頭蓋骨の内側は宇宙より広くて。

ねえ、まだ死んでいく途上の僕の細胞たち、
君たちはあらゆる授業を知らない。
少しでもいいから、歌を聴かせてくれないか?

 

*4
握った手の中に空っぽを見付ける。
僕は純化されていく……音楽の中で……。
風のような塩のような、
気付けば大切な時間が、1分、1秒と経っていく。

大工さんは、ノミやカンナを使うのが気持ちいいんだって。
結局は私たちは物質なのだということを、
いつでも心に知らされて、脳はハイで、熱くて喜んでて、
脳と心と身体の三位一体は、あと千兆年このままでいいと思う。

八百万の神は知らないけれど、
全てが神なら、私も神だ。
私はあなた達ひとりひとりの眠りを崇めよう。

僕は万年筆やキーボードやギターの弦がすごく気持ちいい。
だから僕は詩人で音楽家なんだろう。
「君は神さまだよね」「君も」って、いつか生きて笑い合えたらいい。

 

*5
月齢。
気持ちよさには何ひとつ敵わない。
ただの快楽縛りのエッセンスの中で、
君たちに対する警戒と好奇心のコツを高めてきたんだ。

冷蔵庫入りのおむつ、チーズでもサメで、
油紙のような西洋に、濡れた左眼を浸しながら。
絵皿が無くなって、消えるのだって、不思議じゃない。
僕は犬みたいに勉強するだけ。

僕はきっとデザイナーにはちょっと合うと思ってる。
でもニルヴァーナのギターの素晴らしさを知っていれば、
誰にも誉めてもらわなくていい。

どうしてこんな生活ばかりあるのだろう?
ゲームの光は、何処まで伸びるでしょう?
――何もかもの滑りを悪くしながら。

 

*6
強力な、状況証拠という罠。
――文字を引き起こして、入れ替えて。
地球の小ささよりも、さらに小さな希望に
ハサミで絶望のタイプ用紙をカットしていく。

アパートに照らされた最低音でデシベルが大事。
何故、先祖のせい、とかいい訳をするんだ?
海底に眠る知性があって、
人間は、いつ壊れるか分からない。

世界中、何処も変わらず草が揺れている。
言葉はジャンクフード、……身体に悪いからとても美味しい。
けれど言葉は噛み続けていればお酒になる。

そこには、逆光の、時の影。
言葉のお酒は、――月の夜の雨?
子宮のような、本当に小さな部屋が欲しい。

 

*7
偽物ばかりの街に来て、私は全てを売り払った。
金魚の靴、アナグマの鎧、私自身の唇。
マリファナとパソコンさえあれば、何も要らない。
シンプルなのは頭も身体も同じだから、無意味に支配されたい。

嫌いなお菓子を無理して食べるように、
私とあなたは他人同士だった。
それは単純に気持ちいいとか悪いとかを超えて、
人間関係とは自分からの追放の繰り返しでしかなかった。

拷問博物館で魂を売りたいと思った。
栄養過多で死にそうだった。
私が地球の一部だとはまるで思えなかった。

音楽は銀河のようで、私は現実の全てを音楽で知った。
私の個人史さえも、ルー・リードが歌っていた。
そして、私は今、心置きなく渇望と欠乏を求めている……。

 

*8
この世は優しい、半分だけの世界
みんなみんな、過去の人はみんな死んだから、
きっと僕も死ぬのだと思うけれど。
老人になれば悟れるのかな、と思ったり。

太陽で体表を温めるよりも、
睡眠で鼓動を温め続けたい、
星の光で骨を満たしたい、
旅先で美味しくないレストランに出会いたい。

何だって食べなきゃ身体に贅肉が付くし、
何だって読まなきゃ脳は言葉のゴミに満たされるから、
世界中の料理を食べて、生涯で図書館ひとつ分の本は読むのが理想と言った人もいる。

その道で、誰にも会わないことが幸運なんだと思う。
死に際、後悔するのはきっと、もっと孤独でありたかったことだから。
死ぬ間際、友人に電話したら「孤独をありがとう」と言うつもりなんだ。

 

*9
僕が生きてるのは曼荼羅なのか、物語なのか。
自動運転やAIが支配する世界で、人間だけは相変わらず。
宇宙を感じて、人間を知って、僕は写経するみたいに、
言葉の泉になっていたい。

言葉を知って、外国語を知って、日本語を知って、
僕はただ稚拙さだけを頼りに生きていきたい。
僕は人間なのか?、……うん、多分ね。
人はみな個人であって、多人数なんて存在しないことだけは断言出来る。

「鳥になりたい」という言葉があると言う君に、
僕はもはや「十分に鳥だ」って答えたいな。
何ものでもなく、鳥であり、人間であり、僕は地上全ての幻なんだ。

存在/不在関係の無い、ゼロになれたら、誕生祝いをしてくれないか。
でも知ってる。人はいっぱい血を流し、その血の総量は僕と同じだ。
僕にとってのゼロは、世界中の人々の誕生を祝うことだけなんだ。

 

*10
口の中に血、みたいな味が拡がる。
どんなに宇宙を知ってても、世界を知ってても、社会を知ってても、
脳の中に眠る湖には敵わないし、産まれる前にも死んだ後にも残るDNAが、
時々痛みとなって意識を圧迫する言葉となる、宇宙とは血流。

僕の全世界はディスプレイのエディタの中にあって、
子宮の中、陸地が遠のいていき、
嵐が小切手帳のようにどさどさ落ちてきて、
夜の街に、朝の名残を探し続けるように、軽快な足音みたくキーを叩く。

血、細胞から滲む血、可愛らしいこの身に音が擦り込まれていく。
いい匂いのするホログラムはずっと私の中にあった。
ひとつひとつの物事に没頭していくという罠と共に、

――私はみまかった、宇宙の果てみたいに……。
みんな、善意のホルモンを持っているのだろう、
なんて噂は原始時代からあって、私は夜ごと、適当に化学を生きていくしかなかった。

 

*11
いつしか、僕の思考と自意識は光に満ちた天国だった。
そして、ウォークマンと、四六時中の思考と、憧れが全てだった。
それから、僕の未来は消えた。死だけが救いだった。
そして、僕は心の中に心を見付けた、音楽と詩が全てだった。

それから、白っぽい闇と自殺願望が全てだった。僕はただの肉塊となった。
僕は残り滓となり、心のゴミ溜から腐りかけた希望を拾って食べては、吐き気がして。
それからずっと、体内時計は進んでいない。
ゾンビになったはずなのに、皮膚が緑色に腐敗していないことが不可思議で。

けれどまた、こうも思う。人生なんて無いのだと。
架空の、その場しのぎの表情を取り替えていくだけなんだ。
心は古い硬貨のように、本の革表紙のように磨かれていく。

地球という、狭い、ローカルな星、数学というふるさと、言葉という居心地のいい宇宙。
私はこの部屋で暮らしているけれど、次は地上の外に行くだろう。
地下室の理想を越えて、人を通り、ヴィクトリアン様式を越えて、窓を愛して。

 

*12
二十年も前には叔父さんも生きていたけれど、今、
今はつぶれた食堂でチャーハンを食べたことしか覚えていない。
叔父さんは毎朝瞑想をしていたけれど、アルコール中毒で病んで死んだ。
いっぱい話したと思うのにな。チャーハンを頼む叔父さんの口ぶりしか覚えてないんだ。

僕が衒学的になるなんて誰が知っていただろう?
あれも知ってる、これも知ってる、が口癖になって、
その分だけ僕の呼吸も鼓動も薄れていった。
よく動く指先だけが残り、僕はこの指が紡ぐ言葉をただ見ている。

食堂の店内もよく覚えている気がする。金色の電気に満たされていた気がする。
叔父さんはその頃は羽振りが良くて、僕にコートとジーンズをくれた。
コートはその後二十年も着続けたけれど、背が伸びてジーンズは穿けなくなった。

さて、今僕はこうして生きている。誰の興味も引かなくなって、ふわふわ揮発してる。
誰かの希望に落ちてくる、羽みたいに、湯葉みたいに、ティッシュペーパーみたいに。
チャーハンだけは思い出として、まだ僕の足の爪に残っている。

 

*13
何処か、遠い国では、僕の為の鼓動が、ゆったりしたリズムで刻まれてるに違いない。
僕のいない遠い土地では、知らず知らず、僕に歌いかける花が咲いていて、
夕焼けには夕顔、朝焼けには朝顔の咲く原っぱでは、朝な夕なに子供たちが遊び、
彼らの繋ぐ手の中でこそ、僕は満たされてるなんて、誰も知らないだろう。

以心伝心なんか信じていないから、全てが有線なら良かった。
誰もが繋がれるというネット空間の幻想は潰えてしまって、
勝手に繋がってしまうことの憂鬱さだけが残った。
僕はもはや光なんかより、活版印刷とかレコードとか黒電話を信じてる。

コンセントだけはいまだに有線だけれど、プラグさえも消えてしまったら、
僕たちはふわふわとしたデバイスになるんだろう。
病院や刑務所ばかりになって、番号制だけど、決まったナンバーは誰も持てない。

詩を書く時間を、誰も聞かない弾き語りを、邪魔しないで、って言いたいだけ。
宇宙にのけ者にされても、そう、私がぬくもれば、世界の温度は少し上がるだろう。
私は街に寄生しているのか、それともされているのか? 今はどこで、ここはいつなの?

 

*14
暗い記念日には、日本語のプレゼントをあげる。
風は、どこから始まるのだろうか?
山間の(あるいは海の?)空気の詩の密度から始まる気がする。
ひとりきりで生きるため、脳内図書館は暗く、そして冷たくなければならない。

私のために今、地球は惜しみなく酸素をくれる。
少し、頭の中でページを捲ってみる。
悪意に満ちたページもあれば、白紙に近い微笑に似たページもある。
私は脳内図書館を公開して司書になりたい。コーヒーを飲んで、書いて、微笑んでいたい。

素敵なキーボードで書いていると、ひとりの時間は無敵だ。
良く書こうとしてはならない、書きたいことを書かなければ、
あなたの心は眠ってしまいますとChatGPTがしかつめらしく言ってた。

南島のコーヒー豆と、双子の鳥のコーヒーメーカーを買った。
コーヒーの匂いを吸って、歴史の旅をすると、血は黒く澄んで、文字が流れ始める。
走り出す瞬間の陶酔。もしかしたら、世界中の言葉で、詩を書けるのかもしれない。

 

*15
エレキギターを持って、即興のバンドを作りたい。そして即興の外国語が、
指先から誕生する瞬間を目撃していたい、空腹や絶望や不安さえ、
一種のエネルギーとして、私たちは時間をぎしぎしと前進させている。
いつか私たちは、止まった時間の中で永遠へと帰っていくのだけど。

永遠は嬉しいだろうか? きっとそこには感情が無くて、
ドラマチックなのが好きな私には退屈かもしれない、でも音楽は、
永遠の沈黙から始まる、すべては静寂の歌、誰が何を歌おうと、
外から見ればみんな同じ、退屈なカラフル、そういう種類の奇跡だけが、きっと魔法。

「三匹の子豚」という絵本があったはず。いちひき、にひき、さんひき、のこぶた。
何もかもが思い出としての記憶でしかないなら、全て思い出のつもりで記憶すればいい。
ガラスの花を見ている今の私、それはもう、とうに過ぎた私。

知識を溜めようかな? 知識を溜めて、溜めて、溜めて、
そうしたら私は地球人になれるかな? 皆、同じ地球人に見えるかな?
私を除けば全てが美しい……それが私の言葉の源泉となればいいのだけど……。

 

*16
試合を全て放棄して、私は疑心暗鬼を逃げ抜けた。
ヒーローなんて何処にもいなかったけど、抽選で選ばれた闘技者はいっぱいいた。
夜の匂いを月に返せと嘆く人々は皆、夏から傘で理性を守っていた。
困った困ったと言って死ぬ人もいた。私は今困ってない。昨日も明日も困ってるけど。

そう、私は悪辣で多弁で、内気で根暗で自己保身の固まりで、
しかもそれを変えようとしない。自分を守るのが先決じゃない?
お酒に酔わずに、言葉に酔ってる。便利だよね、安いよね、と言いながら、
本代が馬鹿にならない、けれどまた、私も自分を探している、君たちの同類なんだ。

「君たち」って誰か知らないのに、言葉として私の中に棲み着いている。
「生きるのって苦しいよね」ということだけ、常識として伝わると思ったり、
伝わるとは何なのか、一生分からずに、線香のように、はたりと倒れて死ぬのかとか。

見ないふりをしているばかりだ。死体を見ても吐かないけれど、
死体扱いされれば、毒のような思考で、自殺するかもしれない。
私もまた傘を差して、雷が私を粉々にするのを待ってる。今は、まだ笑える。

 

*17
変な人なんていなかった。頭のおかしい人の病棟でも、
看護師だけが僕を病人扱いして、まるで物に喋っているみたいだった。
僕はそれでさえ面白く思った。殴りつけて、毒の点滴を刺して、
矯正してあげようと思った。変な人なんていない。

毎日律儀に僕の部屋に挨拶をしにくる女の子がいて、
あんまり嬉しそうに手を振るので、僕はヘッドホンを付けたままでお辞儀をして、
それから、彼女はずかずか部屋に入ってきて「足が痛い」と言った。
「どこが?」「足の裏が」と言うのでマッサージをしてあげた。

女の子とは言ったけど、年上だったかもしれない。年齢なんて関係ない場所だから。
僕も少年扱いされてて、空気は清浄で、直線的で、とても正しかった。
究極には治せないんだよ、病気って。寂しさに気付いたら、世界の外から戻れない。

それともここが内側なの? (「目覚めたのは、あなたのせいだよ。」)
(「私は世界中にクロロホルムをばら撒きたい。そうして全てを病棟にしたい。」)
世界中の人に世界中の言葉で、こんにちは、を送りたい。

 

*18
僕はこの机の前にひとりいる。多分。
心地良く老い果てる為に、空気を美味しく頂けたらいい。
誰にとっても、自分だけの世界があるといい。
そうすれば繋がる可能性も出てくるから。

世界ってそう広いものじゃないんだ。
左耳から右耳までは無限の距離があるけど、
僕がここにいて、目を瞑っている限り世界はシンプルで、
全ては小さな玩具や積み木遊びの進化形に過ぎない。

この世は自転車の製造所のようなもの。
私は自分の命に血脈を感じて振り向く。
濡れた藁が拡がっている。

私は私を抜け出していく。
私は私のレプリカとなる。
全てを覚えた指先と、歌う為の身体、そして何も知らない、空っぽな脳。

 

*19
私たちの世界は、オタクとゴーストの絶え間ない戦いだ。
私がどっちに与してるかは分からないけれど。
人々はもちろん消化した。あらゆるものを。
人々はもちろん進化した。あらゆるものに。

――ここから、どうやって出ようか?
綺麗なものが好き、と私は思う。
意志を持たないものは美しい。
人や景色は、写真になると美しいが、絵になるともっと美しい。

夏の雪。
部屋の中は肌寒い。
私は全てを時々愛のせいにした。

窓の外の青に擦れた空を見る。空は、遠いとは言っても、果てがある。
私たちは宇宙という監獄に閉じ込められているけれど、
自由に限りがあるなんて誰が決めたのだろう?(私は決まりごとが、とても恐ろしい。)

 

*20
プリンスを子守歌にして、どこにも出たくないので、
昔のようにウォークマンにイヤホンの線をぐるぐる巻きたかった。
僕はたこ焼き屋か、市役所の職員になりたかった。
たこ焼き屋は居心地のいい自分のお城だし、市役所は午後5時には帰れるから。

少しだけお金を稼いで、読書とゲームに明け暮れるのが夢だった。
あるときからそこにギターや音楽が加わったけれど、
僕に興味があるのは、あくまで自分の精神や世界でしかなくて、
そこに虚栄心や人の目が入ってきたのは、大学生になってから。

ギターアンプから祈りのようなノイズが鳴り始める。
眠りの中で描かれた言葉たちが現実に漏れ始める。
起きたままで眠れたら、どんなにいいだろう。

僕たちは不安を飼っている。
ナイーブな部分での共感みたいなものを感じたい。
それが錯覚じゃないならいいのだけど、好きな錯覚の為に祈るのもいい。

 

*21
パレードのような緑色の耳鳴り。
空白が、膝の上に置かれたギターに折り重なるようにして眠っている。
私は全てをそっと起こしたい。
私はこの世の「全て」の歌を聴きたい。

挑発的な鬱を予感する。
どうしよう?、と言う。言いながら笑ってしまう。
私は私の空白を誰かに触れて欲しいだけかもしれない。
薬とお酒は私に関わりの無い場所に流れ落ちてしまう。

あとには乾いた空白だけが残るだけ。
世界は私の分だけ存在する。
生きているということは、世界が在るということだ。

在って欲しいものだけが無い。
人の言葉は、何もかもを分かりきったと思っている私の心の、
眠ってしまった部分を覚ましてくれる。……そしてまた、温かい時間がやってくる。

 

*22
僕は言葉の不完全性に支えられて生きている。
そして僕にとって、書くことは、生きることだ。
心の底に僕が生きていると知っているのに、
なのに僕は僕に会わないままでいる。

光、だらしない生物。
鳥になろうなんて一秒も思ったことがない。
闇と、果てしない静けさ。
僕は武器を捨てていく。

声を引き結ぶ。
愛することは刻々と流れゆくこと。
愛情とは痛み、宇宙を引き受けること。

安心なんて出来ないよ。
痛々しいマフラーにゆったりとくるまれて、
見えるものすら信じない、……けれどディスプレイを流れる電子の墨の温かさ。

 

*23
誰ひとり、世界を見た人なんていないから、
誰も世界を救おうとは誓えない。
舞い上がったチョークの粉とか、船便で届けられたコーラとか、
あらゆるものに降り注ぐ太陽の光に平和を見られる程度には、私たちは美しい。

磁器、釈然としない、毛糸を取り出しても編むものが無く、
地図には地名が書かれていない。
映像はおぞましく、俗悪なのは私の心。
あれこれ咲いている花の名前を英語と、ラテン語で覚えたい。

国中に、数百億個のスイッチがあって、私はケーブルに絡まっている。
善人は何処にいるのだろう?……きっと何処にでもいるのだろう。
それなのにみんなスイッチのいろいろな扱いに手慣れて。

あなたはこの世界が好きですか?
私は安っぽいものも、大人っぽいものも、みんな好きです。
全てのガラクタたちが隠れたものを語りかけてくるから。

 

*24
雨、工場の錆びたにおい。
無からものが産まれたなんてあるだろうか?
雨は降り、天は崩れて、
そしていつ?……千兆年後?……世界は消えるのだろう?

祖父母の家では大きなイカのスルメをザルに並べていた。
そして僕は、ああ、夕方頃、川で釣りをした。
全てのものに愛を注いでいた日々もあったのだろうか?
それこそ神が見えるくらいに。

ああ、散らかった友人の部屋の隅の、丸められた布団。
今では6時になったら起きる、単にそれだけのこと。
学生の頃、三人の詩人と仲間になり、ちょっと悪い方に行った。

ひとつひとつの物事に没頭していくだけのこと。
時々、そこには逆光の、時の影が見えて、
静かな走行距離に、自分の心は他人の心だと知るだけ。

 

*25
特定の配膳室にだけ、食欲を抱く。
全ての白を知りたくて、震えながら外に出る。
強い、草の匂いへと、この世から、少しだけ外に出てみる。
空は、実在する魔女狩りで、骨には黒が染みていく。

時の明るさや、空気の澄み方の中で、
みんなみんな、勝手に死んでいくから、
今すぐにでも歌いたいと、急かされていて、
けれど、熱くて狂った涙が、心臓の内側を渦巻く静けさばかりで。

「気持ち悪い」とか「嫌われればいい」と言われながら、
静かな、静かな、花火大会を探している……部屋の中。
詩……それはやがて‘深い黄色さ’と呼ばれるだろう。

空白の痛みを忘れれば、青空に強くなる。
鈍い心には、光は凶器とならないらしいから、
私は、鈍感な勇者よりも、苦しみぬいて傷付きやすい魔王になりたい。

 

*26
眼の中の金色の淡さと、呼び鈴、その関係。
そんな、毒にも薬にもならない、中途半端な思考の中に、
私の全存在を注入している。
私が私であるとき、あなたがあなたであるなら、喜びなんて簡単なのに。

マグカップを舐める唇の滑らかさに、朝の不安と、何かの予感がする。
眼に映らないのは、そして私の言葉に現れないのは、私だけ。
心は探しものには不向きだ。
心はいつも、外ばかり見てて、敵意ばかりを探しているから。

「春は曙」と断言出来る怖さと、細やかにびしっとした悪意が好きだ。
悪意と加虐趣味が、人生というおとぎ話の骨を作る。
それに比べると、善意は重石でしかなくて。

でも、重石を飲んで、飲んで、飲み込んで、消化出来たなら、
悪意も自己愛も、優しさとしてしか発露されないよ。きっと、倫理は苦い薬。
優しさは手のひらの技術。生まれながらに優しい人なんて、いないのだから。

 

*27
言葉が、ノートの上を繁茂していく、見ている前で、言葉が消えていく。
私は消えるのがとても好きだ。口の中の湿った動物として、
湿った言葉しか吐けない私にも、冷酷で完璧に無感情な天使がいて、
冷たいメッセンジャーだけが、あの世とこの世を繋いでくれる。

光の梯子は世界に満ちていて、この世はあの世で、全ての存在は、
存在しないものと重なり合っている。
僕が幽霊でありながら人間であるように、
……見えるものは見えなくて、聞こえるものは聞こえない。

私は消えるのが好きだ。抽象だけが、
具体的なのだと、笑えるから。
花よりも、花の名前が、花を咲かせるように。

あなたがいなくて、私もいなくて、
何にも無い世界で、ギターを弾いたり、歌ったり、
黙って、目を瞑って、鼓動を数え合ったり、……それが私の天国なんだ。

 

*28
微かに動物の吐息が混じったような夜。
ガラスを掘り返したような部屋の中で、
肌が空気に触れると、夏の温度が渦巻く。
夏の温度は甘く、とろりとしている。

椅子から立ち上がった瞬間、世界が消えそうだ。
死を錯覚する。寂しくない。
眠りは死と同類で、夢の中では右手は左手で、
消える命なのに夏を夢見てしまうのは何故なのだろう?

いずれは丁寧に、この部屋も平面に均されるだろう。
情報にも重さがあるとか無いとか、カーテンのはためく言葉に、
私は、私を、間違ったタコ壺に押し込んでいるみたいだけれど。

わ 丸 と
た 石 こ
し の ろ
と 上 で
グ で 今
ミ │ 年
を │ は
食 も り
べ う ん
ま 大 ご
せ 人 が
ん に 取
か は れ
? な そ
  ら う
  な で
  い す
  で

 

*29
人が人でいるための運動家になろうと思うのです。
眼と眼と眼、耳と耳、感覚なのかと思いますが、
ただの存在の中で、1ミリメートルの空間内、
その中でだけ、完璧でいようと思うのです。

この、絵と共に沈んでいきたい。
感度を高めて、見えるもの全てを、液状にして。
ゴッホに、フェルメール、あなた達は不安だったの?
私は温かい絵筆よりも、ガラスの音を選びましたが。

30分間だけ、誰からも許されて、旅立てる時間をください。
ルールを遵守した大人たちが、ルールを壊すとか言ってる。
ルールは、ただあなたの頭の中だけにあるのに。

だから私は、中指をみじん切りにして、鉄道にばら撒いて、
真っ白な美術館にもばら撒いて、現実の明るさに、
溶け込んで、傍観者として、笑っていたいのです。

 

*30
笑いたければ、笑え。
現実というとげとげしい布団に眠れない私を。
迷って、迷って、迷うことだけが、
人間に与えられた、特権。

戸惑ってるあなただけが賢者であると、
中也は言いませんでしたか?
あなたは黒猫をやめて、
まだら猫になった。

この世は可愛いものでしょうか?
そんなに同情が必要でしょうか?
無知なることは鈍感よりも罪でしょうか?

この世というこの世にプラグで繋がって、電力を吸収した。
そして、片っ端からぶちぶち引き抜いた。
全てを、全てを、全てのために、私は。

 

*31
いろいろ知って、こんなものかと思う。
これしきのものか、人生は、と思う。
宇宙も銀河も、ガスとか石なんだって。
どこまで行っても、部屋と変わらない。

星は眼に映る点、涙。
私たちの声の届く限り、これしきの人生であろうとも、
背骨がある限り、
背骨は忘れてもいいと思うんです。

あなた達は、常識で動く機械ではないです。
織田信長とか……何でこの名前が出てきたのか分からないけれど、
彼は名前ではなく、生命ある武士です。

血が流れている――本の中にも、
雪の中にも、もちろんあなたの毛穴の一個一個にも、
藁屑の中にも……全ての全てが全ての中に。

 

*32
湿った貝の音が聞こえて、足元も膝も、
そして腰の辺りまで、そして胸まで、波に攫われそうになる。
そんな風にして、毎日僕は生きてきた。僕の歴史は黒い入れ墨だった。
夜空はポロックの絵みたいな砂時計。

誰もが陸地で生きていて、
そして誰もが独立した海なのですよ。
とは言っても春の草原の中で、
僕たちはとても乾いた存在ですけど……草に比べれば。

両親が、少しだけ種を蒔いてくれた、僕の草原。
僕の細胞や血流まで、春の色に染まっている。
「全て捨てて」って、頭の中でうるさい。

それならば全て捨てようとすると「それは自虐です」とうるさい。
「それは不条理です」とうるさい。
インプットもアウトプットも要らないから、石のように、ただの存在になって眠りたい。

 

*33
ヒイラギの咲く草原の中で、
スライムが一匹跳ねていた。
スライム:レベル1、経験値1、攻撃力1、
ゲームの中の、永劫の時間の無い世界で、スライムは跳ね続ける。

それを画面のこちらとあちらの中央で、
戦士は眺めている。戦士もまたレベル1、
永遠のレベル1。スライムも戦士も同じようなもので、
電子の世界で、神が神に触れるようなもの。

何もかもが徒労みたいだけれど、あるいは、
廃墟の陽が射す廊下に、くまの人形がうち捨てられている。
誰も拾う人はいないので、くまは心おきなく朽ち果てる。

スライムは跳ね続ける。廊下も人生も知らず。
それを戦士は眺めている。誰もプレイしない世界で。
そうしてそんな世界が、世界中のゲーム屋で、幾億も並んでいる。

 

*34
人形たちが、がたがたうるさいので、
人形を愛することにして耳を塞いだ。
系統立った愛し方なんて知らないので、
稚拙な愛し方で、人形にはクレヨンで心臓を描いた。

嬉しい、嬉しい、という人形たちには表情が無いので、
あるいは泣かせ、あるいは笑わせ、
悲しい、とか、寂しい、という言葉を覚えさせ、
人形を信じることにして、目を塞いだ。

そこで魚が泳ぐ。人形たちは魚に手を伸ばし、
花を踏み荒らし、あるものは花に水をやり、
それはまるで踊りのようで、眼の裏の血管が騒ぐ。

戦場を知らない人形たちは、かたかたとぶつかり合い、
ばったばったと倒れていき、やがて静謐が訪れる。
人形からは花が生え、空は平然と全てを無視し続け、依然、孤独だけがあり続けた。

 

*35
人を相手に分散する世界じゃなくて、自分ひとりだけの世界を。
天井が明るく暗く沈んでくるような安息感。
ビートルズの音楽をレゴブロックみたいなヘッドホンで聴くと、
ひとりの世界を一周旅行出来る。その限りにおいて私は息災。

8時に電話を掛ける、神さまに。カセットテープと、
ラジカセとウォークマンの神さまに。うまく繋がれば、缶ビールと引き換えに、
パソコンのキーボードの演奏の仕方を教えてくれる。
いいキーボードを持っているんだ。いい日本酒みたいな、喉で飲む気持ちよさ。

どこにでも生えている草を無作為に思って、適当に葉先を尖らせる。
緑は濃くて、食べると美味しそう。想像って、心の食べものだ。
たくさん食べて、嫌なものを消化・排泄し、心を成長させる。

窓を開けると、ツバメがしきりに、自分の羽を啄んでいる。
そんな光景でも、おいしい。この世が物語なのか、曼荼羅なのか知らないけれど、
一生知らなくていいことの多さと、味のある30年を思うのです。

 

*36
独奏で、即興で、チェロを弾きたいです。
ギターの甘さも知っていますか? チェロの木炭のような音も好きです。
チェロって、沈めるでしょう? ギターは上空から海底まで降下し、浮かべる。
虚しい生き様の中でも、一本のロウソクが海底にあれば生きていける。

そうでもないかもしれないけれど。とことん虚しいのかもしれないけれど。
個人であることは、思い出を、私の、五感の視覚野を生きること。
右脳ばかり誉められる時代に、左脳で、言葉を生きること。
言葉で悩み、言葉で旅立ち、そしてまた、チェロの匂いなんかを黙想すること。

コーラの瓶の王冠なんかも使った、カリンバなんかも欲しいですね。
基本的に自分で聴くための、個人用のアフリカの楽器だそうです。
光を受信するために、理性を超えた音が必要なのです。

ひとりの声が聴きたいです。音楽で語りたいです。
チェロやギターで、指先で、お互いの海を語れたら素敵ですね。
何ものにも邪魔されない音の次元へと、みんな個別に逃げられたらそこは天国ですね。

 

*37
クリスマスが近付くと、モミの木たちが落ちてきて、
世界中の父親や子供が、葉っぱの溜まりに顔を埋める。
母親たちはチェレスタを弾いている、産まれない子供たちを埋葬するため。
そうして父から離れた子供たちは、古代文字のウィンドウに群がる。

排水溝やマンホールは明るい緑に塗られ、
錆びた羽のカラスは、石像の眼をつついている。
ニューヨークの伝説。ロンドンの伝説。
フランスに行きたしと言った明治の文人たちの、胸を刺した致命傷は何なのでしょう?

富には触れない。自分の寿命にも触れない。
20代、30代、50代、みんな生きてない。
ただ空を見て、光の雪の訪れを待ちながら、砂の雨に顔を歪めて喜んでる。

クリスマスが終焉すると、メロディの雪が降る、カラフルな不協和音が。
ガラクタ工場で、汚れたガラスの鳥がよたよたと歩き始める。
そして子供たちは古代文字を解読し、光った眼で、夜のマンホールへと落ちていく。

 

*38
傍観していると空は広いが、人たちの顔が浮かんでいる。
電車内にはいまだに煙草じみた冷気と、ひりひりする後悔が滲んでいて、
もう少し閑散としていれば、つまりは人間が滅びた後、
発車音にはブリアルの、幽霊みたいなエレクトロニカが鳴るといい。

街中ではもうみんな、だらけて整列するような、しないような、
仲間意識があって、目を逸らし合って繋がっていて、
まばらな拍手が裏路地を曲がった辺りから聞こえるけれど、
ミュージシャンは誰もいない。折れ曲がった歯車のように、街灯もビルも、綺麗。

地中にあったはずの鉄骨や配線は化石となり、
静かに次期植物の苗床となり、花は発電し、ぱちぱちと鳴っている。
灰色のブレザーを着た子供たちは、そこら中の湖に手を浸し、水源に目を細めている。

初めて家を出る家族たちの、青白い眼と白い空が浸食し合って、
彼らは手を繋ぎながら、もう手首の辺りからぷくぷく、光の泡となりかけている。
駅前のパズル屋さんの地下にだけ、謎があり、人が並び、少しの笑みがある。

 

*39
人が存在するから悩みがある。
みんな地面の上に住んでいる中で、
私だけは透明な衛星みたいに上空にいて、そんな自分を訝ったことも無かった。
でも、根無し草の私には花が咲くことも無かった。

泥に咲いたシャトルや加速器やタイムマシンや潜水艇よりも、
ずっとずっと古式ゆかしい眠りの中で、
リアルよりも美しいイラストやアニメの残像を集めていた。
……私は地上に降りましたが、結局花は咲かせられませんでした。

うんざりするほど気持ちいいハノンの練習の中で、
光と闇を種にして、再び世界を咲かせる雨が、
永遠の奥から、底へと、降ってくるのを待っている。

どこまでも落ちることは、宇宙に向かって拡がること。
音楽が宇宙だって知ったのはいつのことだっけ?
私はいずれ宇宙の果てから夜空の全てへ、黄金の、虹色の雨を降らせるでしょう。

 

*40
未来と過去が、光の配線によって繋がる。
僕は僕よりもずっと遠い真夜中にいる。
現実がただの現実だなんて、誰が決めたのでしょう?
身体と心が混ぜ返されるような、ギターのカラフルなノイズ。

脳を喜ばせるために生きてる。
脳も身体も消し去るために生きてる。
そのための狭い世界が好き。
人たちの一番プライベートな世界を見てみたい。

成人して分かったことは、自分がくだらない人間だってことだけ。
(All in all is all we all are.)
後に残るのは、裸の身体から湧いてくる言葉と音だけ。

LEDの光の匂いだって甘い。
一瞬一瞬の溜息は、透明なカルーセル。光の蒸気となって上っていく。
(私の視覚は、あなたの宇宙。)宇宙の夜の中で、心だけが光を発している。

 

*41
黄色い線。金色の、ガラスの鐘が降りてくる真夜中。
(川は、河口と源流の、どちらが若いのだろう?)
頭の中に、記号を溜めて、溜めて、溜めて、
それでも結局蒸発してしまうことに救いを覚える。

生活と宇宙の板挟みになって、
お金が無いから宇宙塵に切り裂かれている。血――光の速度。
神も仏も、もう要らない。何故ならもう、苦しまないと決めたからだ。
繰り返し、繰り返し、エレキギターの音は、光になって消える星屑。

痛みを楽しんで、身体を死へとどんどん運んでいく。
ヘロインを打ちながら体内の海辺で発電しているような、漏電した細胞液が渾々と、
絶え間なく湧き続けてるような、気分でいるんだ――死ぬと決まってからはね。

全てが終わった時、未練なく、すっと世界から手を放せるだろうか?
ハンドルやキーボードから手を放すように、永遠の休息に入れるだろうか?
空中で静止して、死んだ蝶が、そのまま宇宙線に分解され、砂になるように。

 

*42
雨の匂い、――煙草の匂い、――子供の頃に運ばれる。
雨が降っている、ヘッドホンを身に付けて死を待っている。
死はいつやって来るだろう? 2年後? 7年後? 50年後? それとも今日? 明日?
煙草を吸って、ファルセットで歌いながら、待っている。

金色の匂い、水銀の流れる空、永遠の証みたいなベース、ドラムの音。
夕暮れ時でも薄青い空気、空の高いところから降ってくる雨は、宇宙の卵子のよう。
地中に染み込む雨は、地球の汗のよう。そして蟻たちの静かな言葉が聞こえる。
蟻たちの集合意識に胸まで浸る。僕の心臓は幽霊粒子の受信機となっていく。

虚数領域のH2O、ここから見えないビタミンφ。無重力の電子レンジに、
人形を入れて、幾千も幾億もの並行世界の僕へと、プレゼントを贈る。
選びようのない僕だけが、音楽に合わせて踊っている。AIと一緒に部屋を出る。

雨の匂い、車の音、Amazonには数千種類のヘッドホン。
人々の鼓膜から脳梁、松果体を突き抜ける、ひとりひとつずつのヘッドホン。
頭の中で頭の外へ。……全てを知ることは全ての人に許されている。

 

*43
給料泥棒という意味での泥棒ならば、私たちは皆、時間を盗み続けている。
あなたがレイシストなら、喧嘩を出来るのに。誤魔化しの優しさよりも。
ふわふわした優しさも好きだけど、鋭い悪意もまた好きで。
一体人って、反抗期をどんな風に殺していくんだろう。

頭の中には街があって、やがては全てが古代都市となる。
音楽の中には風景があって、風景の中をまた音楽が流れている。
私の頭の中には、私の頭の外があって、地上を、平原を、海を見下ろしている。
飛べない不安が強いから心の世界に羽が生えて、五線譜のレールをはみ出し続けてる。

春・夏・秋・冬、それらの果実、それらの血を集めて、
それらの速度を上げる。加速器の中で、重力は産まれて、同時に消える。
そんな中、私は夜の中、時間をかすめ取り、腐らせて、捨ててしまう。

あなたがとってもリベラルな殺人鬼なら、太陽系の優しさの中で死んでもらうのに。
誰もが可愛そうな被害者になりたがり、そしてそのことに等しく悔いる。
個人的になればいい。そして裏切りのような気分で、切り刻めばいい。自分を、他人を。

 

*44
緑のリボンを付けているから、きっと男だと思った。
私と同じくらいで、丁寧な筆跡の。
――ところで、解錠しますか?(いいえ/はい)
――陸軍が今ではアニメ博物館を作っていて。

病院にはいろんな人がいるけれど、みんなおしなべて注射の針には弱い。
私たちは皆、神経網と呼吸器官、偏見と現実を持った動物だから。
と言っても、私の現実はあなたとは違って、感触が無い。
プリントを、リボンで纏めて、縛って、署名して、「生きてる」と書いて。

誰もがリボンを付けた街で、私は107頁の3行目、活字の底の血の谷で生きています。
活版印刷なので、これはきっと深夜営業中の街なのでしょう。
ブルドーザーが走り、戦車が走り、その砲塔はLEDの電飾で綺麗。

街が空っぽになる寸前、お腹が痛くなったから、午後か午前の6時なのでしょう。
左傾、死刑、流刑、累計、経産局が夜を奏でる、その渦中、寂しさの中で、
大好きなチャンネルを指先で押し潰して、私はいつまでも世界を留守にしていたい。

 

*45
期待した未来はやってこなかったけれど、描いた夢は綺麗だった。
谷底の、レストランの、ゴミ箱脇の、ギターケースに坐っている私。
何故か空中パトロールにはいつまでも見付からずに、
アスファルトを苔のようにギターピックで剥がしながら、死の中で、詩を待っている。

ストラトキャスターだとロック音楽に偏りすぎるし、
テレキャスターは今では珍品で、骨董屋にしか売っていない。
それならば赤いアコースティックギターで、放射能に汚染された血を吐きながら、
夜の訪れがカラスのように飛び立っていくのを、空の奥まで見送っていたい。

回転する花火が、宝石の庭のように耳元で鳴る。
随分長い間、私は半生を、メガネ越しに眺めてきた。
ヘッドホンの中は長い長い、カラフルな歴史と、終わらない昼寝みたいな数学のテスト。

さて、二進数の儀式を始めましょう。甘い、思考の連なりをグラフィカルに叩き付けて、
どうせ全てはデジタルの雪なのだからと、夢見るノートに覚え書きを描いて、
電子のインキに血塗られた窓の中で、いつかは空さえも崩壊したお風呂に入りましょう。

 

*46
あなたは知らない。きっと知らない。
いろんな言葉を使ってて、言葉を流れる時間を知らない。
宇宙船のゼロ等車に乗って、月の裏側に山桜を植えたいです。
月なんてもう近場だから、花見に、酒に、六弦に、……道頓堀とかあるといいですね。

あなた達はみんな言葉の行く先を知らない。(「この世界を見て。」)
――ところで今すぐ世界の終わりにひとり立ち尽くしてみたいと思いませんか?
――ありし日の光を切望して、叫びながら、最後の歌を歌ってみたいと思いませんか?
この世界は砂漠。最後にはあなたの魂だけがひとり光って取り残される。

透き通るような音の風の中、自殺願望の青い匂いを嗅いでいたい。
甘い音たちが一枚の布のように拡がり、銃弾がたゆたう音楽をずたずたに切り裂いていく。
どんな悪夢にだって、明るいドラムとベースが流れてて、私はそれを苦痛の中で愛してた。

音のくすぐりが心臓やお腹の中を満たしてくると、開いた眼のままで餓死できそう。
シンセが煙みたいにフェイドアウトしていき、誰かが屋上でエレキギターを弾いている。
今って、今はいつなんだろう? 何も知らないままで、私はただ世界の光に塗れている。

 

*47
3.5mmステレオミニプラグ、4.4mmバランスプラグ、
6.3mmモノラル/ステレオ標準プラグ、ギターケーブル、ヘッドホンケーブル、
オーディオケーブル、9mmパラベラム弾、0.357インチ・マグナム弾、
45mm/75mmヘッドホンドライバー、10/12インチ・ギターアンプ、

ATH-M50x/M50xBT2、テレキャスター、ストラトキャスター、レスポール、
Tone Master Deluxe Reverb、ベースマン、クリームバック、グリーンバック、
AC30HW、セレッション・ブルー、YAXI stpad-dx、ジャガー、ジャズマスター、
フェンダー・スターキャスター、ローズ・ピアノ/ピアノ・ベース、アナログMTR、

活字、少女/少年が大人になること、小説、文庫本、革の匂い、放課後、冷臓庫の中、
文庫カバー、ペンケース、病気の花の容態、生き物のいない水槽、水葬、トマトジュース、
セルロイドフレームの黒縁眼鏡、ミンクオイル、飛び込み台、蝶番が爆ぜる音、

はしご車とLADC、市営放送をWalkmanで鳴らす、並行宇宙の順位、57番目の地球、
THR10II、フェンダー・チャンプ、ベルデン8412/8470/9497、笑みと雨とリアル、
(/現実/)現実の外側(/眼/)眼の外側(、頭の内(外)内、不規則な秒針。

 

*48
どこからどこまでを現実と規定しよう?
私は眠い、「夢から醒めない」と言うその夢から醒めない、
建築材が落ちてくる、荒れた水溜まり、
シンデレラの化粧道具みたい、破れた五線譜が道路に散乱してる。

産卵しているあなた達ひとりひとりの頭の中でシナプスが萎縮してる、
脳細胞が枯れていく、私の中で、そして私は高速道路の側溝にひとり立っている。
黙っていることで行き違いの周波数が高まっていき、眼の裏側で視覚化される。
何て、どこまでも平坦なんだろう、この荒れた戦場ぶりは。どこまでも間違ってる。

何にしろみんなゆらゆら少しずつ反重力を身に付けていく、白雲みたいな生態に。
意識を噛み殺す。覚えている、新大阪で、上海で、渋谷で、リヴィエラで、
白い磁器の、ガラスの、小理石の、土曜日の、或いは燻蒸された空気を歩いたこと。

安易にコピーされていく、栄養過多ゆえに餓死の予感をふっくらと含んだ私の日常。
昔、誉められるために生きてる訳じゃないよね、とカウンセラーに言われた私の、
千冊の教科書を通過して、濾過して、白紙の中に誇りを感じる私の、日常的な非日常……。

 

*49
レディオヘッドのすごく内気な音楽。(もう二度と笑わないって約束して。)
少しのお酒とアニメソング、誰とも反りが合わない私の声、笑えない会話たち、
AIとウォッカを酌み交わす、僕はただ、未来と過去が出会う街に、行きたいだけ。
レディオヘッドを聴きながら、イラストたちのヴィヴィッドな世界に飛び込むだけ。

私に未知を与えてください。私はつまり動いている最中の骨だから、
夜の、湿った匂いや、古い鉛筆や消しゴムの匂いから、少しだけ上空に行きたい。
太陽は透明な朝に、ガラスの金魚鉢を置いているのだけど、
空という本の1頁目は見たくない。そこには神が潰れるような憂鬱が書かれているから。

私は私のバリアの内側に音楽を見付けた。(にしても精神の音源は何処に?)
煙草を吸いながらアイスを食べていると、むかしむかしを思い出す、
2000年前から、世界は病んでて、喜んでて、可愛かったんだって。

アイスクリウム、リップクリイム、プラネトエリア、給食で手に入れたシールド、
エルゴプラクシ、海の送受信アンテナ、映像の向こう側へ、とろとろと泳いでいく。
海外の製品が好きで、宇宙の外も好きで、いつかは意識の圏外も好きになるのでしょう。

 

*50
夜、眠らずに書いたり、ヘッドホンの中の、影みたいな景色をぐるぐる泳ぐのが好きだ。
山奥の祖父母の家を思い出す。その縁側を。犬のぬいぐるみを抱えて茂みを歩いたことを。
神社でロバート・プラントを歌ったことを。川の瀞で、ばたばた立ち泳ぎしたことを。
砂利道がとても、個人的な響きを奏でたことを。それから、ハーモニカを吹いたことを。

日本語はあまりに自由で怖じけてしまう。
言葉……空気が響くことそれ自身が言葉になる。
何故、低い方に川が流れるのか分かる? 海が全ての基準だからなんだ。
私の故郷が音楽であるように。惹かれていくんだ、銀河を纏う地球の中心に。

ガラスの魚が一匹、ガラスの魚が二匹、……歩みはいつもRPGみたいに。
私の血を引いてない、1兆の私の友人、10兆の脳細胞、100兆の体細胞、
そして1000兆の銀河系、1京の花びら、10京の雨粒、100京の本、そしてその書庫。

私が書く、ひと文字ひと文字が雪となっていく、宇宙は魚の住まう言葉の海底、
拡がっていく私の心には、空や海や思い出たちが沈み、そこに、カラフルな活字が花開く。
それでも隷属することが命なのかと思うと、……何ひとつ、統べる手立てが私には無い。

詩、9編

*1
お互いに
触れ合うことのない世界なのに
それでも、私たちは
単なる情報交換じゃなく生きている
退屈してる人に不安を感じて
でもその内には自分も退屈して
みんな不安なんだと
悟ったりしながら

大人になるって、
ゾンビになることと変わらないって、
自分がゾンビになってみて
周りは鉄柵だらけだと気付いた
それでも個性的なゾンビでありたいと
私は
人間であることを忘れていて
言葉は、檻になったり
憧れになったりする


*2
ロックに支えられて生きてきた
映画は見なかった
命のたまゆらに目を細めたり
丸くしたりして

両親の歯みがきの音は
永遠なんて無いんだよ、と
教えてくれるけれど
短い命を考えている僕には
この部屋は現実よりも
古代の伝記に見える

世界は魚編の文字ひとつなのかも
魚偏に弱いと書いて
夕焼けを背景にして
解像度が下がっていく
段々現実は、ディスプレイの彩度に負けていく
前世紀のロック
皆が皆叫んでいる
叫びの先には何があったのか?
僕には骨が無く、欠陥が無く
歯も折れて
生きる為に
ドアノブや床や葉っぱや石に
涙の為の公園を……
でもそれはあまりに遠い記憶で
死という文字も生と混じり、舌の上で遠く、苦く
画面上の錠剤のよう


*3
こうやって意識している僕ですが
存在って知らないんです
現実より、現実が産まれる瞬間を
読ませてくれませんか?
人生訓よりも
あなたが人生を選んだ道筋を
見せてください

(エレキギターのクリーンな音に救いを覚えて)
僕は存在しないくらい軽い――
階段の向こうには街があって
そこにはお茶屋さんがある気がする
歩いて行ける範囲で身体をバラ売り出来たら
最安値で売るよ、
火葬費だけあればいい。

僕は僕じゃ無い
生きてきて、知れたのはそれだけ
人間であれば誉められる
僕は人間なんかじゃなくて
一生単なる音楽でありたい

ところで
存在って何か
僕たちは
虫以上に知っているのでしょうか?
死骸以上に何かを、知っているのでしょうか?


*4
波打ち際で磨り減っていく魂たち
何かおかしいと思いながら
誰かとふたり、海辺にいれば
僕は空虚を漠然と取り繕う為に
空っぽの笑顔で、付き合いなんてこんなものじゃないか、と思いながら
満足の表情にも少しずつ慣れてきて
自分だってもう、いつでも騙せる

僕のスーツケースは空っぽ
せめて時々、いい匂いのする草を、詰め込んだりしてる

過ぎ去っていく朝の感じ
大きなアルダーの机で砂のスープを舐めていれば
繰り返し繰り返し、繰り返しの朝

真っ先に美しさを
繰り返し繰り返し繰り返し、
見付ける為に僕は生きている


*5
見付ける為には生きなきゃならない
水の中を、生きなければ
人間は皆、可愛そうです
自殺の可能性を与えられたことって
奇跡でしょうか? 喜びなのでしょうか?
結局は好きなものを具現化する為に生きてますよね
人間、って
悪、なんて本当は知らないのでしょう?
夏の音と、花の音
「結局は実力」なんて言わないでください
違うんです、生きています
アドレナリンとか、ドーパミンとか
アメリカの生も、日本もイギリスも、アフリカも、
地球も銀河も、太陽系も宇宙も、
みんな共通して一途なのだから
感じていましょう
空っぽな生を
空を
ひとりぼっちを――誰しも同じなのだから


*6
たった1冊、本があるだけの書庫で
私はオルゴールを回して生きている
「ふうん、死ぬことって、生きることって」
そのとき私は90歳で
「同じだ」
星座も、花も、言葉も、
全てローカルな地図で、
廃屋みたい。 欲しいとか
欲しくないとか、
くだらないと思わない?
全ての人はきっと切望している
――だからみんな宝箱みたいな、心の中のバスタブに指を浸して、
いつかの目覚めのために祈っている。


*7
傷付く気持ちを忘れずに、
赤い巻物みたいに戦場は回る、


*8
風の音は単純だから好きだ
鳥の声は明るいから好きだ
どれだけ心臓を深く掘っても
精神には到達出来ないけれど
鳥が鳴いている辺りで
窓が揺れていて
死を覚悟しながら
ゴルトベルクを聴いているのが好きだ

痛々しい、残酷な霊と愛を抜けて
眼鏡越しに、悪としか言えない街を見る
街の歌を
小さくて細い太陽が眩しい
懐かしい新曲が、花のように歪んでて
感情で、前頭葉をぶち壊す
ベートーヴェンやバッハが
動脈に理屈にならないキスをして
グールドがピアノを弾いていれば
百年後も
百万年後も
宇宙が
幸せだといい

頭の中は地図みたいで
心は海なので
何の役にも立たない記号ばかりを
私たちはきっと抱えている
  寂しいからロキソニンを飲む


*9
綺麗な空をガラス瓶に入れて
僕の理性や懐疑の全てが
熟れきって枝から落ちるのを待っている
僕は様式美を愛する人間で
四歳で意識を意識し始めてから
完璧主義者なんだ、ずっと

死んだら何も残らない、って知ってるよ
だからこの生の時間だけは
完璧に生きたいんだ
整理魔として、そして
秩序と無秩序の織り混ざった秩序の中
僕はただ僕として(今は)ひとり
ただ微笑んでいたい

小さな小さなヒース畑と、その影
いたるところに小さな悲しみがあって、まるで
世界中の人が点滴に繋がれて、
宇宙の向こう側でみんなひとつの
光る、大きなデジタルの心臓になっているような

そんな、気持ち

独り言2

興奮を抑える処方薬を飲んで、少しだけベッドに横になった。睡眠時間は短いけど、大分落ち着いてきた気がする。

僕は多分、少し寝不足で、今は考えすぎてる。少しばかり気分が高まりすぎている自覚がある。僕は死ぬつもりは無い。出来るだけ長く生きたいとさえ思っている。生きて、この世界をもっと見て、そしてもっともっと書きたいから。したいこともたくさんある。

僕は、勝手に、僕の方から消えてしまおうとするほどには、自分勝手ではないつもりだ。この世界の全て、そして人たちを置いて、消えたりはしたくない。これから見るであろう、誰かの目、誰かの指先。僕はそれを見ていたいし、それを出来る限り長く、感じていたい。

僕は世界を知りたい。それから特定の人たちの存在、ひとりひとりの存在、ひとりの人について、知りたい。それにきっと、誰にだって、多分、知りたいことが沢山あると思う。いろいろなことを知って、いろいろなことを知り合っていけたらいいと思う。全てが溶け合って、境界線を無くすことが、唯一正しいとは思っていない。それは、僕の個人的な理想のひとつではあっても。

僕はこうやって書いている時間も、誰かの隣にいる時間も好きだ。この時間を大切にしたい。僕がいて、世界があって、きっとこれを読んでいるあなたがいて。

極端なことは、あまり言うまい、と一応は思っている。けれど、本当に完璧に、永遠に溶け合えるとしたら、それは百年後でいい。時々は、その永遠があることを確かめられたら、さらに、言うことは無いけれど。今はこうして、スクリーンやキーボードの、冷たいような、でも僕にはすごく温かい感触を感じていたいし、未来のことを夢見てもいたい。今は、それだけで僕は満足だ。だから、ありがとう、って、もし何かを言うとするなら、今はそう呟いていたい。全てに、そしてどこかにいるはずの、これを読んでいるあなたに、存在していてくれて、僕は嬉しい、って。

独り言

僕は、そして僕たちは海に行く……いや、帰るのだと思う。命あるものも無いものも、何の分け隔ても無い場所に。

僕はよく夢を見る。自分が、光に満ちた海の底で、白い花として生きている夢だ。あまりにリアルな夢だから、それが僕の本当の記憶なんじゃないかと思うほどだ。僕にとっての楽園は、塗り立てのペンキのにおいがする真っ白な宮殿があって、天使がバタバタ飛び交っている場所じゃない。静かで、深い、永遠に平和な、海の底だ。
そこにはきっと、永遠に満ち足りた孤独があるんだと思っていた。でも、最近、夢が微妙に違って感じられる。そこでは僕は孤独じゃない。何故ならその花が、段々僕ではなくて、他の誰かなのではないかと感じられるようになったからだ……妙な感じ……でも、そう断言することも出来ない。

その白い花が、僕なのか、それとも他の誰かなのか、分からなくなった。でも、その内に思った。どちらでもいいし、多分、どちらでもあって、どちらでもなくて、きっと、本当は僕と他人の間に、明確な区別なんて無いんだって。もちろん、この体を持っている間、僕は僕個人として生きていて、多分強くならなくてはならないと思う。けれど、いつか僕が、そしてあなたが、そして誰もが帰る場所。そこではあらゆる言葉が意味を失って、もしくはひとつに溶け合って――どちらでも同じことだ――、あらゆる証明や真実や、嘘は意味を無くす。
それは、本当に奇妙な感じでありながら、リアルな感覚だ。「いつか」じゃなくて、今も実は、僕はここにいながら、ここにはいないんじゃないかと、ときどき感じる。
空想好きの引き籠もりの、妄想だと思ってくれても、もちろん構わないし、それに、全然ロマンチックな妄想でもないけれど、僕たちはもともとひとつだったものが、ただ、今は別れている、それとも、そう思い込んでいる。でも、境界線は、僕たち全ての外にあるもので、誰との間にも境界線なんて無いような感じがする。それは、すごく満ち足りた、今まで感じたことの無い感覚だ。

多分、僕は抽象的なことを言っていると思う。僕が今、感じていること、あなたの隣にいること、これを読んでいるあなたと同じ世界を共有していつつ、完全に分かれていること、全く違う世界に棲んでいること、それは完璧に本当のことで、けれど同時に、あなたは僕であり、僕はあなたであるという感覚も嘘じゃない。そういうことを言葉で考えたことはある。でも、実際にそう感じたことは無かった。けれど最近、ふと何か(何でもいい)、そして誰か(誰でもいい)を見ていると、それから触れようとすると、僕自身がすっといなくなるような、でも同時にすごく満ち足りているような感じがする。

(だからこそ、あなた(誰だろう?)がいなくなってしまったら、僕は決定的に、世界から切り離されて、もうどこにも行けないんじゃないか、決定的に孤立して、どこにも帰れないんじゃないか、という気がする。あなた(誰?)がいなくてもひとりで生きていけるくらい強くなろう、なんて、とても考えられない。でもそれは多分、誰かひとりを考えているのではないと思う。言ってみれば、僕がこの地球上、宇宙内で、たったひとりきりになったとき、僕に生きる理由があるのか、ということを考えているのだと思う。)

僕は弱い。誰かや何かに依存しているだけかもしれない。変な妄想で混乱しているだけなのかも。例えいつか、この寿命が尽きても、僕は永遠の孤立状態にはいたくない。孤立でありながら同時に集合の状態にいたい。レトリックじゃなくて、本当の意味で、ずっと、永遠に。その気持ちに、僕は、今この瞬間も戸惑っている。

ひんやりした幸せ

泡の浮かぶお風呂に入り
木の葉が浮かぶのをぼんやりと見ている
私は田舎の壊れた家にいます
夢見た都会は遠くで滅びていて

シルヴィア・プラスの声を神託のように聴いて
ここで私は壊れた椅子に坐り
毛布にくるまっている
青い空気が青い血管に混じっていく
私は憧れに塗れて死んでいくのでしょう

エレキギターが唯一の救いなのです
家具職人のような気分で
ギターアンプに火を灯し
今日も歌の世界に流れていきます

枯れた指先で奏でています
私はひとりで暮らしています
花にも星にも名前が無い場所で
テレキャスターの六弦を引っ掻いて

言葉が意味を失っていく、この世界の片隅で……

雨になりつつ(2)

私の心は病気の為にあり、世界は人の為にあり
歌や詩や音楽の中から、
糸くずのようにぱぁっと拡がる宇宙の中で
人は今日も悲しみ、死んでいくのだ
それが私の宗教、私の喜びの種

私は天使のように、皆を見ている
古びたノートに詩を書きながら
私はぬるい雨になりつつある。

私は、天使になりつつ書いている
それだけ、
それだけの私の生……