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風向き次第で、理由なんてどんどん変わる。
生きてる理由も、死にゆく理由も。
搾りたてのオリーブオイルみたいに、
空気はいつも揺れていて、
私が私である理由は、ただ、
お気に入りの黒い靴のおかげだったりする。


アメリカ大陸をつるつるに磨き上げるように、
ソフトクリームを両手に持つように、
12本の鉛筆をふたりで分け合うように。
生活は「今」というアトリエ。


不安や動悸こそが恩恵なのだと、
命が尽き、全てが冬になるとき、
あなたは何か、多分風に似たものを感じる。


(心によって出来た結晶たち。)
雪の結晶のように歌いたい。


不安の無い世界で会いましょう。
私はギターの地図を持っていて、
あなたはピアノの地図を持っている。
部屋はとても四角くて、そこに白い陽が差して、
ガラスのような心拍を、
私たちはふたりで見詰め合っている。


ギターが一音ずつ揺れている。
脳/細胞に共鳴する酸素。
ただ光る波としての私を勝手に見ててもいいし、
誰も見てなくても平気。
宇宙の光や星の粒と、同じ呟きを、
手のひらの窪みに載せて。


少し楽しくて、全て繋がっているのはどうしてなんだろうと脳裏でテレパシーみたいに、僕の心/身が交信し合っている。
多分、誰かと一緒にくすくす笑い合えたら、最後の瞬間はそれだけでいいんだ。
不完全なデータを残してきたけれど、最後はきっと笑顔で塗りつぶせる。
そして消えるんだ。


私たちはみな、誰もいない場所に住んでいる。
けれどちょっと大人になって、今日の祖母に「おめでとう」なんて言ってみたら?