海の花の標本

青い花に飾られた風の椅子 壊れた化石 と愛を失った呪術書は 遠い未来を向いたまま乾いた氷柱になってしまった
水面下 太陽は揺れていた
青く融解された夢
コロナ 太陽を透明に包み込んで冷たくなって微笑していた
溺れながら夢を見たんだ日光を食べながら
生まれた途端に世界は墓場だった
四角い箱の中で目覚めると腕には斑症紋がのたうっていて白血球を齧っていた
去勢されたのかどうか火葬されるまで気付かなかった
大きな星が降りてきて「乗りませんか」と言ったけれど
僕が期待しているうちに冷蔵庫が呻りだして僕の心臓に爪を立てた
シャッターが降りた 何も光らなかった
光るのは象の皮膚の表面で餓死しかけた僕の血だけだった
博物館に行った歩いていったんだ 自動化された遊覧船を笑って

博物館には何も無かった 僕は這って進まねばならなかった 床は冷たくて肌触りがよかった 遠くで音楽が鳴っていた 音楽は天井を瓦解させて僕の前に降り立つこともなく目の前の床を瓦解させ地下に潜っていった 「海の花の標本」の前で僕は立ち止まった 呆けたみたいに笑っていた(笑って?いた) 海の花に触ることができなかった それは空気みたいなもので だから僕は海の花を吸った 吸った海の花は僕の後頭部を通過してワラビになって壁にささってげらげら笑った 僕は壁に穴を開けて頭を突っ込んで夢を吐き戻した 顔をはがしてまたくっつけて眠った