時計台


みんな遊んでいる。時計台の中で。

表玄関に庭があり、それが道路に溶けていく。
僕はそれを何処までも歩いていった。

結局僕は昔も今も、お風呂に浸ったままだ。
全身が水ぶくれになって、溶けてしまうまで。

僕は読書をしている。
本のことをギリシャ語では一枚の布と言うそうな。
僕は糸を引っ張って、布を解いている。
そして時間稼ぎをしている。

みんな時計台の中で遊んでいる。
蝶がひらひら、光になって飛んでいる。
誰かが「きれいね」と言ったので、僕は蝶を捕まえる。
そしたら誰かが笑った。

割れるような優しい音で、
鐘が鳴る。



虫かごを持った子供たちが庭を走っていく。

僕は、子供の頃の夢を見ている。

鉢植えが倒れている。

雨と海の楽しげな宇宙の中で、
僕は書庫にとどまっている。
遺書をタイピングしている。

  ((光の蝶を手放すと、誰かが「……」と言う。
  ((僕は振り向かない。

糸を解き、糸を編み、
誰かのために、僕は手紙を編み続けている。

悲しむほどに日は暮れていく。
書庫は美しく、淡く、カラフルで。

僕は一枚の布を編む。ひとりぼっちで。

プラスチックがことに優しい。

血で切手を貼ろうと思う……
いつか、僕の手紙を紐解いてくれる、
ひとりの誰かに宛てて。