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肉眼? それは眼鏡のレンズの向こう側にある。
どこまで得られるか、どこまで飛べるか、
そんな競争を出来たら。何ひとつ確かじゃない部屋の中で、
床や壁になって、人型の私もまた、この世で生きていない。
どんなに世界を軽蔑したって、世界が綺麗じゃなきゃ生きていけない。
世界はこの程度煩雑で、この程度美しくて、
全て全てって言う割りには、全てって少ないですよね?
全部知ることだって可能。私が人形で、
私の他、全てが生きているならば。
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全ては瞬間ごとに可能。現在は限定されているし……、それに、
生きることには絶対的な感動と、詩があるから。
力のある物に惹かれるって本当ですね。
オレンジ色のパワーショベルや大きな煙突が好きでしたが、
それにしても大きなものを、最近見ない気がするのはどうしたことでしょう。
出不精だからか、それとも昼間からお風呂に入って、
そのまま死んでしまいたくて、
夜にしか外出せずに青い石鹸で身体を洗っているような毎日だから?
ただ私の形と交錯する世界で、
力あるものに溶けて行きたい。
お風呂場で瞬く間に起こる死と生の青さ。
サボテンをいくつ枯らしたでしょう?
彼らが踊り出す前に、目を瞑らなくては。
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滑らかなピアノが欲しい。ゆがんだような、
かすんだような、古いような、生まれたての水のような。
あなた達は記憶を生きている、だけでも成功者だ。
帰路があるのだから、おかえりなさい、と、
こんにちは、の部屋が。
あらゆる博識は、小さな干涸らびた有限に帰結する。
優しい、裏切らない生物たち。固くて透明な、
信念で形作られた、宝箱。私にとって運命は、
必死で合わせても合わせきれない、そもそも合わせる気のない、
手付きばかりはゆっくりと優しい、ギターのチューニング。
透明で、何処にも存在しない、「愛してる」を発音して消えたい。