王国

僕はここにいて、
ここにしかいない。

暗い部屋の中。
スピーカーから流れ出す、
ニック・ドレイクの歌の中。

僕はここにいて、
ここにしかいない。



街外れの港には、油のにおいが染みていた。
電柱の影は銀色で、送電線が光っていた。

夕暮れに、船はぎしぎし鳴っていた。
僕は自転車から降りて、
堤防でしばらくぼんやりしていた。

僕の心も送電線のように光っていた。
僕は地球の裏側にいた。

秋を目前にしたアスファルトは、水色のジョウロの匂いがした。



近所の、人の声さえ懐かしい
秋の朝には、白菜みたいな色がある



淡い青い気流の中、僕は、読書をしている
子供のように個人的に、このまま死ぬのかと思う

空気は甘く、僕はひとり、
針のように親しい、合板の本棚の前に、座っている

僕はひとりで、肌は薄く、また硬く、
心細いミルクのように

僕の過去はいつも秋だったみたいで、
ひとりであることをどうする気もなくて、
秋の中で死ねるのなら、それもいいのだと、
それから先は、何も、
分からないままでいるのです……