夢から覚めて、
夢はすり切れた地図のようで、
私の肩は濡れていて、
口には微かな金属の味がした。

寒さの中で、夜は目を閉じる。
私はここに起きている。

釈然としない。



僕は三十六歳だ。
僕は何色にも染まらなかった。
風が吹いている。
風は、十九歳の頃と変わらず吹いている。

何日も、何日も。
トンボが透明に、乱れて飛んでいた。

誰とだって、知り合いな気がする。
誰とだって、別れた後の気がする。
僕は何ひとつ奪わなかった。
僕の世界は奪い尽くされて、
今ではトンボの、透明な目のようだ。



雨に吹かれて隣りの屋根も光っている。
戦争は常に遠い場所で起こる。
私は、私自身を眠る。
たとえ頭上で爆撃が起こっても、
私はそれを見ないし知らない。

甘いスミレが咲いている。
私はいつのまにか五十歳になるだろう。
私はいつのまにか八十歳になるだろう。
私はそれに気付かないだろう。

私の中から、言葉は出てくるだろう。
言葉は巡り、季節は巡り、世界は眠る。
まだ誰も訪れたことのない眠り。

みんなと知り合い、
みんなと別れた。

明かりを落として、
私は眠る。

太陽を忘れて
私を忘れて



頭の中の気配。
無言と沈黙が私を溶かす。

許しが世界に溶けていく。
すみずみ。

死とともに、
世界は進む。

音楽は眠る、
言葉は眠る、

世界……、

私は眠る、
包まれて。

さよなら。
もう、
水面も、
見えない。