シグナル

ひとつの優しさが消えるごとに宇宙は消える。
雨の日、学校に行くとき、3Dの花がいっぱい咲いてた。

そのとき僕は日本語のSFに嵌まっていて、それからアコースティックギター
ヴィヴィッドなピンクの遊園地とか、真っ赤な松の木とか、
あらゆる救命用具とか、魚や広告や、運命を語れないかって、
寂しい枕元にはチェリーレッドのギブソンを置いて、

優しさに於いては、浮かび、動く、新しい感覚が必要で、
温故知新ではない、空海とかソクラテスのダウンロードが、
可能な世界で、証拠(エビデンス)固めをしていく必要があって、
例えば青い浴槽の中で、昔を忘れ、未来を忘れ、熱っぽくて、ぼんやりとしたままで、
死んで行くみたいな憐れみが、
お腹の中でぽつんと浮かぶことが必要だと思っていた。

けれど実際には、僕は手首を切って、
真っ赤な浴槽の中で、消失することが、笑みのひとつの根拠なのだな、
クレイアニメみたいな、顔の無い世界に触れただけだった。
古い古い巻物みたいな映像が脳の中に無限に織り込まれていて、
たかだか6000年くらいの人間の書記の歴史が、とても怖くて、

それをみていた、それを見ていた、僕だけがいて、

「あ」とかしか、喋れない僕は、自殺だけを
全ての許しの根拠にしたかったのに、僕は脳の半分ページを千切って、
それをさらに半分にして、そして
ひと文字も揃うことのない、一語も残らない脳の中では、
孤独は無限の人々だった。

消失の中、なのに求めているのは人たちで、
その限りにおいて、生きていることは絶望だった。
僕は次の一語を、そして言葉や文章を、語るしか無かった。

いまだに孤独は埋められない。
眼の前にある壁は、ずっと未来の故郷に見える。何もかもが懐かしい記憶を映す
ディスプレイの中、何故死ねないのだろう?
エレキギターを買った。それも真っ赤な。
何故青を愛せないのだろう?

幸福と空腹を抱えている。
逃げようと思うたび、身体より心が先に泣き始めてしまう。

血のようにみんな溶けてしまう。

赤く続く。赤く続いていく。いつまでも明るい、絶望の中……
僕は、ただ、息だけをしている。