きれいなものたちへ

今年もまた、私はこの椅子に坐って、紙縒りのように詩を書いている。
緑色の、温度の無い砂漠の中を、両腕で飛ぶようにして。
優しい私。 ちっぽけな私。 私は私に纏わるもので出来ていて、
私は私に冷たい。

あなたは料理をする夢を見る。食卓には色がある。
目が覚めると色はぼんやりとしていて、まるで音みたい。
その音について教えて。

脳の中は緻密な街。そこに一本の、とても鋭くて細い、
針が立っていて、その針だけが私の見る、外界に触れている。

自分の足で歩いていた。 私は河を歩いていた。
とびきり可愛いイギリスのパーカーを着ていた私は、そこでは病気で、
此岸も彼岸も、みんな病人の、白い息みたいだった。

近くを歩く誰かの、冷たい濡れた手。その手を怖れていた。

今私はここにいて、秋風のもろに当たる椅子にうずくまり、
愛された楽器のように乾いて、湿った、誰かの手を求めている。
、とっくに諦めた、諦めを反芻している。

ショッピングモールの中で孤立していた私。
あなたは孤立することなく、カードを誇らしく出して、私に微笑んだ。

風が吹いていると、懐かしい気がして、心が少し柔らかくなる。
そして私はひとりぼっちになる。 小さな小さな私を感じる。
風に、紐の栞が揺れている。それを見ていると私は「リアル」という、
身に染みる、夢の中にいて、何処にいたって、誰といたって、
必ず私が戻ってくる、故郷を感じる。……それは夢?

誰か、誰か……その誰かを私は知らない。