夢と標識と浮遊の、街

カーテンが揺れている。憑依されたように。心がリズムに合わせて踊るように。
残酷なくらいのリアルがこの向こうにはあるのだろう。
僕は一秒一秒を食べて生きられることの僥倖に浴して生きているけれど、
グループホームにもデイケアにも行かないし、最後の煙草を吸っては、
指折り数えて僕をナンバリングしている。数はとても涼しいけれど、
数は緑色に横たわっていて、そこには待ち人は誰もやって来ない。
僕自身は待ち人の世界からやって来たというのに。

世界には正解は無いから、僕に言えることはただひとつ、
僕にも口先くらいはあるということだけ。

岩波文庫
新潮文庫
角川文庫
講談社文芸文庫
白水社
旺文社
早川書房
三省堂
ちくま文庫
……ショーケースみたいなガラス越しの活字
痛苦を伴う自然言語たち、デスクの上のささやかな世界
BOSEのCDプレーヤー、ライフのノート、
Panasonicのパソコン、DELLのディスプレイ、
Pilotの万年筆、ぺんてるシャープペンシル
そこから未来は始まる?、これが僕の世界だ。
デスクに載った、僕の世界の全て。

薬のシートが見える、赤いクロスを拡げた街のように、
スピーカーからは意識の下を流れる音の清流、氷混じりのような
暗さと明るさの入り交じった、ベースと、あとはもう
同じ青白い霧のような音楽ばかりが。

それでも、全ての小さなアルバムには、それぞれの味と噛み応えがあって、
世界って多分天国なんだろうなと思う。
CDと次のCDの間の無音の線の架け橋は、その都度僕を二つの人間に分けるに足る。

壁の色が変わっていく、ここに座ったまま、僕は階段を降りていく。

破れたカーテンが白い月の光で僕を照らす。
その時まで僕は全ての季節を一度に浴び、何十万人もの意識が起こるに任せて、
ハイになったりロウになったり、僕を演奏し続けるんだろう。

霧がかった家、世界の何処にも存在しない家。
カエルの歌が聞こえる街で、刑務所の外壁をいつまでも眺めていたい。
Amazonで買ったヴィシー・セレスタンを飲みながら、
小説の街を散歩して、ゴールなんて何処にも無くて、
世界の終わりの、円形広場に入っていく。夢の中で夢を見て。

冷たい雨と、死んだような夢。誰も来ない時、
人生はまるで夢みたいだ。赤いマグにジュースを注ぎながら、
カーテンの揺れのリズムにだけ合わせて生きている。リズムにだけ。
ああ、それでも精神には曲がり路があり、
今度ひとつの角を曲がれば、何かあるか?
何かあるか、とずっと待っているのだ。
それがゴミでも構わない。
何か、いつか、何かきっと面白い何かの為にだけ、
僕は生きる。