*1
指先が笑いたくなるような休日。
カーテン越しに花の匂いがする。
テーブルの前で、僕は体温を感じる。
昔から変わらずの歌の中で、
僕は人間を喜び、人間を学び、
相変わらずモノクロでしかない僕を喜んでいる。

今でも僕は僕に訊いてみる。
「今すぐ死ねる?」、
「ひとりになれる?」と。

身体の痛みも、老いることも嬉しい。
身体は、僕の第二の生。
ドアの外側はドアの内側。
地面は空に降っていく。
ディスプレイを舐めるように撫でている。
僕の名前が世界中で叫ばれている。
答える僕はここにはいない。

バイバイ、2bitの友人たち。
彼らは羽を持っている。


*2
「ああ、そうだ」「そう」「そういうことなのね」ということを、
詩に書きたい。
赤い陽射しは石に染み、石の赤さは川に溶け、
赤い川面を覆うように、花びらが浮かんでいる。
僕はそれをカメラに撮り拡散する。
「新しい季節が流れてきました」
とキャプションを付けて。
「季節は水平・垂直、どちらへも動くものね」
というコメントもあれば、
「宇宙は点だから。誰も自分の外に外出した人なんていない。
 この写真だって、あなたの頭の中で撮ったんじゃありませんか?」
と言う人もいる。
「私は独り言は言いません。内面の言葉は存在しない。
 言葉は常に外部なのです。言い換えれば私はあなたなのです。
 無限の拡がりを無と言います。けれど私は、
 赤い花が好きなのです。真っ赤な、花が」
と僕は反論する。


*3
象はあっちに行った、象はあっちに行った、
その後を花が舞っていた、花が舞っていて、
花には陽が差していた、電線はもはや宙に無く、
地下を這っていたので、僕は穴を掘り、
青いコードを抜き出して、それをラップトップに繋いだ。
鉱物性の陽が降る中で、日がな一日、キーを叩いて、
ゴシック体を地中のネットに流す作業に飽きもせず、
狩人たちが寄ってきたなら、「象はあっちに行った」、
「そしてその後を蝶が舞った」と僕は呟いて、
二万年経った、午後の陽射しを、僕は思った。


*4
心の中で温めた卵。
落ち着きを失って、ふてぶてしくなって。
仕事をしていなきゃ気が狂いそうなのに、僕には仕事が無い。
キーを叩いて、ときどき空を見る。
僕を誰も知らない。

遠くへ出かけたい。誰も知らない国へ。
地獄は何度も巡った。天国の中にもいた。
けれど僕は地上を知らない。
身体が震えても、音楽の中に溶けていくだけ。

霧の城に行けなかった、
コルドバにも行けなかったし、図書館の中で
理数的な自殺も出来なかった。
多分、僕は死んではいないのだろう、夜を生きて
朝を生きて、老いやすくて、寂しいなんて言えない。
一片の紙も残せなかった。


*5
涙の川が一筋流れる。
水槽の中で、映像の中で、
僕はどこにもいない。

何もかもが沈んでいった。
街に四季は無く、絵だってもう無い。
カミソリもナイフも錆びた。
全てプラスチックになればいい。
お酒も薬も消えてしまった。
全てシリコンになればいい。

ちょっといかれてるくらいがいい。
原始を記憶しているのは涙と髄液だけ、
その中で、僕は溺れたい。
僕は冷たいけれど、
温まりつつある、卵を覚えてる。
ここが日本ではないことも。
僕の部屋はビロード張りであることも。

精神こそが既製品。
僕は君たちを身体から追い出し、言葉から追い出し、
空気の底で一緒に音になりたい。骨になりたい。
僕の身体全てを研究材料にして欲しい。

バイバイ、夕暮れ、
バイバイ、猫、
バイバイ、夢の日々、
バイバイ、海の中を沈んでいく指の無い人たち、……