5枚の葉

ほんの些細なことで人は死ぬんだ
そしてこの部屋が遺される、という僕の信仰
分からないことだらけで、僕はこの世に
言語を横取りする泥棒として生まれた

僕の内臓は空っぽの電車
灰色に寂れた土地を荒れ狂ってる
坂道をすごいスピードで落ちていくと
しばらく平和な凪が続く
鳥が鳴いていて
標識は黒い肋骨

動物園に行きたいと思いました
自殺者を兄に持つ妹は結婚しにくいかと少し思っていました
妹にはもう大きな赤ん坊がいて
死ねずに困る僕と
思うように歩けなくて母がちょっと離れると不安げな顔をする甥がいて
その二人の、僕と甥との不安げな表情は
似てるというより同じなんじゃないかと思うと、少し悲しくなります

僕には帰る場所が無い
病院の薬はおそらく僕を駄目にしました
けれど後悔はしていません
後悔する能力が先にやられてしまったから

僕は僕を抱きとめてくれる誰もいないけど
大人は自分で自分を抱きしめなくちゃならない
起きてから何度頭が真っ白になるだろう?
人との交流は稲妻の中にいるようだ
想像だけで腹膜に亀裂が入る
身体中の電流が目の前のお箸に流れていって
空っぽにうつ伏せになったり、
真っ白なまま大笑いしたくなって
虚ろに楽しくて楽しくて堪らなくて
血を撒き散らしたくなる
自傷はとてもハッピーだ

人を避けています
今、あるだけの薬を口に放り込んでいるけれど
僕は丈夫なので、何ともないでしょう
ODが怖いという人の多さに驚きます
明日、自分の脳がどうなったって、それがどうだと言うのですか?

ミンガスのベースが、遠く、遠い
スピーカーで音楽を聴くのが好きです
大好きな人はみんな死んでしまった
ニック・ドレイクは50年前に
ミンガスは40年前に、死んでしまった
残ったのは……と言っても僕に残せるものは何も無いけれど
死ぬつもりなら何でも出来ると言って、何でも一心にして
何か残したい、まだ僕の中で燻っている
不安の殻の奥にあるものを生々しく露出したい気持ちもあるけれど
結ぼれた気持ちのまま死んだからって、だから何なんだ?
という気持ちもある



ODしたあとの目覚めっていうのはいつもからりと乾いてて
朝の光っていうのは未来の中にあるのかと思います
視覚の鮮明さは一種の芸術だと言いますけれど
それは嘘で、本当の光は盲者に見られるものだと思います

エアコンのリモコンの手触りとか、優しくて
スピーカーからはやはり恐ろしい、そして優しい優しい悪夢のような
ミンガスのベースが流れています
私は朝の光に溶け込んでいて、身体に、肩の辺りに
透明な、軽い翼が生えているみたいです、浮かんでるみたい

この世のことがちょっと好きになります、神さまは平等に
朝の光を与えてくれる、新しい一日の中に、全ての人が生きている
それが歴史だ、昨日死ぬつもりなのに律儀に磨いた歯が、つるつるしています

煙草を吸って、薬を飲みます。迎え酒というのか迎え薬と言うのか
これでコーヒーがあれば完璧なんですが
カリタの安い、お気に入りのコーヒーメーカーは壊れて
次はパナソニックのを買おうと思っています
朝日はカーテン越しにとても美しくて
私の指でさえ喜んでいるみたい

ぴかぴかの、お気に入りの世界
どんな人間的な醜い感情も、活字の上では美しい
私は人間を知りたい、とこの朝の光の中では思います

私は部屋の掃除の続きをしよう
読みかけの本を売りかけたり、人間に興味が無くなったり
いろいろ不埒なこともしますが、真新しいニンジンみたいに
全ての環境が、私という偶像を恩恵に満たす、朝
透明でぽーっとした意識の中で、全ての人が美しいです
深海の、透明な金魚たちのように
統合失調症双極性障害もみな、過去の虚ろな、理由無きファンタジーみたいに

片付けをすれば、麗しい、山の匂いを嗅いで(それは概念的ですが)
木々の香りに包まれて、フローリングの木目が透明な川に生じる
渦になっていき、カマンベールチーズを食べる西洋人みたいに
やわらかな空気の下で、また、私はニック・ドレイクを聴くのでしょう


(envoy)
何もかもがたおやかだ
最後の5枚の葉っぱが残る
ここは王国
「愛してる」もここには無い
あるのはただ十本の指と溶け落ちるミンガス

全てが朝の光の中で美しい歌となったなら
戦地も要塞も月の裏の空想になり
自転車で走る子供達や
詩や、スピーカーや
人類全てに与えられるサウンドルームだけで
世界のコミュニケーションは完結するのに

朝の光、朝の光……

今、現在が記憶のようだ
理由無き日々を過ごそう
外では鳥が鳴いていて
鳴いていて、それだけで人生が終わりそうです……