王国

1
ここは、残った王国。
それ以上何も求めるな、とキーが囁く。
爪を切る。世界が、
何を歌っているのか知らない。とても美しい歌で、
色が溢れるのが抑えられない。部屋の壁が薄く離れていく。
ギターを取り、Aコードを弾く。

とても、とても赤い音。


2
英語にも詩にも色があって、色の無い世界に憧れながら、
光の白と、生命の緋色、色で遊ぶ、遊ぶ。
睡るように優しい、世界は日常、日常的な深海の虹。

世界は赤いビー玉、その外側で沸騰する血の中で、
僕は世界に合う靴が無い、世界に合う鍵が無い。
脳は卵。アドレス帳を読んで分裂するような。


3
人間関係とは概ね、長い長い挨拶を覚えることだから、
みんな正方形になりたがっているから、
勉強も日常も延々と続くトートロジーで、
私だけでも、とても複雑な線を配した星になりたい。

私とは概ね、他人が決めるものだから、
例えばポケットに入れたトランペットで数学の証明をしたりとか、
18歳のときに来ていたTシャツを、真っ白なままで着ていたい。

周期表が明日も続くと思っているの?
あなたは神を信じている?
馬鹿に思われることが怖い?
焦燥に捕らわれることが怖い?

生きてることは、私が解体されていくこと。
人生は過去じゃないから練習出来ない。
iPodに20000の曲を入れて、音符と音符の間を縫っていく。
言葉と言葉の間を……。

身体はやがて虹になる。
明日記録は変わるかもしれない。


4
僕は生きていて、人間とは滅茶苦茶なんだと思った。
人間って、心があって、心が見えない。
自分の心さえ。
どこに捨ててしまったのだろう?
眠りながら絶望して。

宇宙なのに。

人間の滅茶苦茶さが、それだけが宇宙なのに。
何でも整頓して、何が分かると言う?
命を込めて、全ての夜を込めて書くべきなんだ。
そうじゃないなら、みんな捨ててしまえ。

整えるなんて馬鹿だ。
分かるって何のことか分かる?
覚えるのはもう止めにして、
頭のネジを、一本一本、外していくんだ。

……
僕には人生がよく分からない。
死ぬ。間違いなく僕は死ぬ。
死ぬこと以外知りたくない。
車を壊して回りたい。
車が嫌いだから。僕は僕がどうなろうと構わない。


5
(ベッドの上は、残った全ての王国だ。
 こうやって、ベッドの上で詩を書いていると、
 ここが全ての宇宙みたい。
 詩集とノート、万年筆を傍らに置いて、何の煩いもなく半睡でいる。

 iPodとお気に入りのヘッドホン、
 たまにギターを抱いて、
 小さなアンプの電源を入れる。
 それだけで、何も要らない。
 ベッドの上は僕の王国。

 他、何を捨ててもいい。僕さえも。
 僕はどうせ、捨てても捨てきれないから。
 空っぽの僕になりたいだけだから。
 この身体に軽く完結した僕に戻るんだ。

 このまま、何年生きても構わない。
 死んだら、残るのは、ぼろぼろの詩集と、
 ぼろぼろのギター。それだけならいいな。
 何の衒いもなく全ての人を愛せたらいいな。
 僕は僕の窮屈さ、僕、僕、僕を解散して。

 お酒と睡眠薬は、僕を空っぽにしてくれる。
 僕を確実に殺してくれる。
 けれど僕は、頭の芯がいつも醒めている。
 着ている服を脱ぐように薬を飲む。)