一輪の思い出を

去って行くんだ。
感動も、青の青さも、全て残して。
紫の影のような、君の残像。
空の果て、鉄塔の下、にぎやかな雑踏、
発光、愛おしいくらいの生命。
何もかもを、残して。

言葉も手紙も、みんな残して。
美しい本棚も、筆跡もみんな残して。

新しい熱量、その冷たさ。
君はいつも、光だった。君のいる空気の中で、
ラップトップで手紙を書いていた。
何も無い部屋で、月の光だけを感じながら、
誰もが眠る時間、今僕は、火花のような悲しみの固まりで、そして。
越えられない鉄橋に咲くヒガンバナみたいで。

生きているのが夢なのか、
夢見がちな僕だけが生きていて、
青さを氷飴のように舐めているのか。
田舎のトンネルの入り口に沿って、
陽の当たる中、名もない黄色い花を摘んでいたい。
憂鬱はより深まるだろうけれど、
そんな明るい光景だけが、僕の全てなのかもしれない。
――トンネルの冷たい、排気ガスのにおい。

赤、オレンジ、アンバー、
昼、枯葉がアスファルトを擦れる音、
全てがある為に、鳥が鳴く為に必要なもの、
色付きの古いボール、冬の透き通る空気の中にも、
ちゃんと山があった。

陽の当たる背中も今は冷たい。

ふと見上げると、壁にはひび割れがある。

世界中の壁に、優しいひび割れがありますよう、
僕は願う。



人はみな、天使みたいなものだ。
人にはみな、何の罪も無いのだ。



誰にも説明出来ない切望が僕にはあって。

世界は光が集中するところに現れ、
そこには僕専用の小さな遊び場があって。

昔日と、今の人々の心。
そして、僕は僕として生きていた。

何もかもを残して去って行く。
けれどこの僕だけは残せない。
僕は僕が何処までも連れて行く。

高速道路がごうっと鳴る。

誰にも残して行けない僕自身を愛でるだけで、
夜は更け、
朝は永遠に来ないのかもしれない。