雑記8

もっとふわっと生きていたいとよく思う。ただ機械のように、キーボードをぱちぱち言わせていたい。虫が鳴いている。虫が鳴いていることは、孤独を倍加させる。秋の虫はもう死にかけている。僕はコンピューターになりたいと思うことがよくある。コンピューターはゼロの思考に浸っている。ただ雨が降っていて、雨が降っている。それだけ。ゼロ。「そこ」に何も意味付けをしない。意味付けをしないところからしか何も産まれないのではないかと思う。世界には、だって、何の意味も無いのだ。わくわくしていたい。ハイになりたい。ものすごく難しいことを考えていたい。世界に言葉を介在させること無く。しかも言葉を愛して。

人間ってとても偏っている。命に意味は無いし、私の生にも意味は無い。私は何もかもの中間領域に行きたい。常に終わりを感じていたい。終わりは、全てを含んでいるから。

青い空の味。口の中に甘く広がる。新しい音楽は好きだ。とても透明で。世界のあちら側を見せてくれる。時間を飛ばしてくれる。

暗闇の中から日常の光を見詰める。私の生はここで終わり。いつも思う。私の生はここで終わり。ピンク、青、黄色、白。カラフルな薬が私の脳を壊す。緩慢に。私は、私がいなくなる瞬間を待っている。死はとても気持ちがいい。ストーブの中で火が燃えている。日常はとても光に満ちていて、それらは配線でどこまでも繋ぎ合わされていて、宇宙はまた電波で満たされている。

今から、あと10年間くらい生きたいな、と思うときがある。何故なら今までの10年はとても辛かったから。無限みたいな10年を生きたい。毎日小さな死を体験していたい。本当は。でもまだ僕はそこまで行けない。死の領域に行けるようになってから10年くらい生きたいな、と贅沢なことを思う。

地味で美しいものだけを揃えて残しておきたいと思う。宇宙のように退屈なもの。私は、自然が嫌いだ。いや、好きなのか嫌いなのか分からない。自然は美しさに向かってはいない。音楽もまた、美しさにばかり向かっている訳ではないが、音楽には枠がある。枠があり同時に枠の外の外にまで拡がっている。12音階には相反する感情を抱いていて、それは数学的でとても美しいと同時に、音楽を非常に狭い領域に閉じ込めていると思う。歌はとても自由だ。ギターも。アフリカの音楽やインドの音楽を聴いている。それは西洋音楽とは成り立ちが違っていて、平気で14音階だとか、1オクターブを7分割したりする。アフリカの音楽にはそもそもリズムが主体で、歌の旋律なんて在って無いようなものなのも多い。

どうしても世界に入っていけないとき。ブルースの音源を聴くのは好きだ。でもブルースのミュージシャンの映像を見るのは、苦手なことが多い。彼らがいつも基本的に楽しそうだからだろうか? うまく世界に入れない。楽しそうな人たちがいっぱいいる場所にいたときの記憶は寂しい。ひとりになりたい。ひとりで大好きな音楽を聴いて、大好きな本を読んでいたかった。空気が揺れているのを感じる。空気は光の粒で満ちていて、それらの無限の連なり、無限の衝突で、空間は成り立っている。

僕の周りで物たちは、憂鬱に口を噤んで、僕には見えない方向に向かって俯いているみたいだ。僕と物たちの間には交流が無く、憂鬱さによって共有される何ものも無い。ときどき全てが幻想だったり、「空」だったり「無」だったりする方が当然のように思える。生活や物たちがあることが不思議で、妙なことだと思う。

ときどき、静寂が何よりの音楽に聞こえる。そしてまた、音楽が何よりの静寂に感じられる。

青いきらめき。青い温かさに満たされた部屋。

死ぬまでの間なのだから、時間なんていくらでもあると思う。いくら時間を無駄にしても、無駄な時間なんて一秒も無いのだ。一秒一秒は私にとって重要では無い。

人工物と一緒に死にたい。手触りとか、感覚とか、そういうものが好きだ。わずかな考えが、僕の頭の中を通り過ぎて行く。僕の頭はいつも忙しく働いていて、僕に大事なものを見せてくれない。ただ今の一秒が、生きていることの意味で満ちているといい。全ては音楽のように過ぎていく。そして音楽のように何処かに留まる。

私はとても左脳的な人間だ。難しい、複雑なこと、この世界の多次元的な座標、そういうことを考えられるとき、私はとても浮き浮きした気分になる。
恍惚の中に消えてしまいたい。

この夜が生ぬるい海水であるようなとき、私はとても生きやすい。

プラスチックの音が好きだ。子供の頃の密閉された記憶。それは決して蒸発しない。

本を感じることが好き。活字の中に心が吸い込まれて行くような。
何も知らないことの憂鬱。何も知らないことの、眠るような恍惚。何も知らないこと。ただ受け取ること。本の中には海がたゆたっている。

左右の指は快感を探し回っている。

『本』の世界。『活字』の世界。

いつも無知の地点、ゼロの地点に立ち戻ること。少年のように。

薬の瓶がとろりと光っている。僕の脳内もとろりとしていて、キーボードを打つ指だけが活発で骨張っている。読書には最適な気分。

この、わくわくする気持ちを、何に例えたらいいだろう?

僕は、昔からここにいる。僕自身を、探さなくてもいいんだ。