メモリアム

緩い陽のなかであなたは私の名前を呼ぶ。
その日ガラスは明るくて、
私たちは図書館の奥深くで、
西日差す野原の芝を眺めながら、
未来について話しました。

私は今はここにいて、
古いフルートやピアノの弦について思い、
ギターの冷たさをガラスのように抱いています。

ディスプレイにも雨が降り、雨が降り、
私は冷たい床に身体を横たえて、
身体が床になるのを、冷たい重力の感触を、
指先が宙に舞うのを、心の奥の冷たい暗さを、
ゆっくりと、ゆっくりと、
押し潰されていくような私の生を、
全てゆっくりと、吞み下すように感じています。
心が垂れます。

全ての過去は、みんな明るい、
暗い、透明な星明かりの中。
私はここにいて、
カプセルを飲み込んでいます。

カプセルをひとつ飲み込めば、
私の声は毒になり、
その冷たい、透明な毒は、
私の心を星にします。

睡眠薬が足りません。)

ギターをひとつ爪弾けば、
私の爪も苔になり、
あの日の会話も(((こだま)))します。
身体の皮膚も、床になり、
カラフルな、白と黒との夢を見ます。
夢を一ページずつ。

あなたは私の名前を呼ぶ。
二階には不思議な窓があり、図書館の木枠の曇りガラスを、
夢とうつつの真夜中に、押しひろげる指先は、
暗く、湿っていて、

西日差す野原と、何かをコトコトと煮るような音、
鍋のような、隕石やエンジンの化石のような、
その音、リズム……


大事なものの味。
未来について私は今も
小さな声でなぞるように、活字を撫でて、
遊んでいます、天国みたいに、物語は。

爪付き、爪付き、爪弾くように、
あなたが呼んだ私の名前は、
浅い、浅い、ぶどう酒の池のように、
揺れています。

今も。
理由については語らないで。
夜明けを、夢を、幽霊の夢を奏でましょう。
永遠にそこでは春だった、
色のない世界。

今も、今も。
図書館の奥では廃墟の夢が木霊します。
理性っていいですね。
私は首と手だけで起き上がり
ギターと夢をコネクトします
考えることは宇宙、
こうして書いていることは「アクセス」
死に行くまでの産まれ続ける「プロセス」
催眠のように、死んで。

名前を呼ばれたら、
幻覚に踊りましょう。
甘い パンのような 匂い
それとともに立ち上ってくる太陽(一万分の一と
一万倍の太陽、眼の中で生きる術は水面、
海は全ての交差点、ひとりきりの
ひとり ひとり ひとり の、ここでの私のアクセス
ネットワーク、指先、体質、
床になる、床になる、爪弾く
ネットワーク=触れる、爪弾いている冷たい
冷たい、冷たい、フローリング、秋の
匂い、ああ あ ホンジュラス
マホガニーで できた 私のギター
全てはここに 自生している
滅びた都市 滅びた都市
全て 滅びてしまった 名も無く
間も無く)

呼吸しましょう。
あの日呼ばれた私の名前。
あなたが呼ぶ声、「名前」
それは、宇宙を包み、宇宙の中心にあって
……
宇宙の外から、中心までの、その過程
の、編み目をなよぶ、私の手

いつもここにある
おおよその言葉

理性って、いいものです、ね。
きっと。

(爪弾く
(爪弾く
(暗い苔のような爪
(遠いコルドバの歴史か何かを
(あなたと語った、そのときそのままを
(丸めたような
(床 冷たさ 気泡
(私 の ギター
(夢のように 永眠する 永眠する
(そして化石は海に還り
(共鳴する全てが
(ここに辿り着く
(それまでの宇宙
(爪弾く 爪弾く
(全ては中心であり外延
(あなたが呼んだ
(私の名前
(そっくり そのまま の
(私 が今ここに いる 今
(そこに どこかに
(いる 息を
(している…

全てを同時に
爪弾いている
私の爪
苔になる
苔になる
藍色に泡立つように
街灯に
手を伸ばしている
私の不在
不在
あなたがいつしか呼んだ
私の
名前。